同一建物につき、甲及び乙名義の二重の保存登記が存する場合に、甲が所有権者であり、乙がそうでないときは、乙の登記は甲の登記より先になされたとしても無効である。
同一建物につき二重に登記の存する場合に、先になされた登記が無効と認められた事例。
不動産登記法15条,民法177条
判旨
不動産について所有権を有しない者が自己の名義でなした保存登記は、実体上の権利関係を反映しない無効な登記であり、正当な権利者に対して対抗要件としての優先順位を主張し得ない。
問題の所在(論点)
実体法上の所有権を有しない者が先になした建物保存登記について、後から所有権を取得し登記を備えた真実の権利者に対し、民法177条を根拠に優先権を主張できるか。
規範
民法177条の「第三者」として登記の欠缺を主張し得るためには、当該不動産について正当な権利を有していることが前提となる。実体上の所有権を有しない者がなした保存登記は、不動産登記制度の趣旨に照らし無効な登記といわざるを得ず、真実の権利者との関係で同条を適用して優先順位を論じる余地はない。
重要事実
本件建物の原始取得者は訴外Dであり、被上告人は昭和22年6月頃にDから本件建物を買い受けた。一方、上告人は本件建物の所有権を原始的に取得した事実はなかった。しかし、本件建物については、真実の権利者ではない上告人名義の保存登記が、被上告人名義の保存登記よりも先に既になされていた。
事件番号: 昭和33(オ)416 / 裁判年月日: 昭和38年3月28日 / 結論: 棄却
一 甲が登記簿上乙の所有名義になつている甲所有の建物を丙に譲渡した後、丙の所有権取得登記前に、甲の債権者丁が右建物についてなした乙より甲への代位による所有権移転登記ならびに甲を債務者とする仮差押の登記は、いずれも有効である。 二 右仮差押の登記後丙の所有権取得登記がなされても、丙は建物所有権取得をもつて丁に対抗すること…
あてはめ
事実認定によれば、本件建物の真実の所有者はDからの買受人である被上告人であり、上告人には原始取得の事実も承継取得の事実も認められない。そうすると、上告人名義の保存登記は所有権のない建物についてなされたものであり、実体関係を伴わない無効な登記と解される。したがって、先行する上告人名義の登記と後続の被上告人名義の登記との間に、民法177条による対抗関係(優先・非優先)の問題は生じない。
結論
上告人名義の保存登記は無効であり、被上告人に対してその優先性を主張することはできない。
実務上の射程
二重登記(保存登記の重複)の事例において、登記の前後よりも先に「実体的な権利の有無」を確定させるべきことを示した判例である。答案上は、虚無の登記や実体なき登記には対抗力が認められないことを論じる際、民法177条の適用前提として引用する。
事件番号: 昭和36(オ)1033 / 裁判年月日: 昭和39年4月17日 / 結論: 棄却
時効により未登記不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後保存登記を受けた旧所有者から所有権を譲り受け、その登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、時効による所有権の取得をもつて対抗し得ないと解するのを相当とする。
事件番号: 昭和33(オ)547 / 裁判年月日: 昭和34年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を時効取得した占有者は、時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を了した第三者に対し、登記がなければ時効による権利取得を対抗できない。また、当該第三者が時効取得の事実について悪意であっても、背信的悪意者と評価される特段の事情がない限り、同様である。 第1 事案の概要:1.上告人ら51名は、本件山…
事件番号: 昭和28(オ)1063 / 裁判年月日: 昭和33年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同一建物について重複して保存登記がなされた場合、登記表示と実際の建物との間に多少の不一致があっても、建物の同一性を認識し得る限り、先行する保存登記が有効であり、後発の保存登記は無効である。 第1 事案の概要:大正13年、所有者Eから贈与を受けたFが、本件建物について所有権保存登記(第1226号)を…
事件番号: 昭和38(オ)1154 / 裁判年月日: 昭和39年7月24日 / 結論: その他
甲名義の所有権保存登記がなされた甲所有の建物について、二重に乙名義の所有権保存登記がなされ、次いで、甲名義の登記が不法に抹消された後に、丙が乙名義の登記に基づき右建物の所有権取得登記を経由した場合、丙は、甲名義の登記の抹消回復登記につき「登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者」に当らない。