判旨
不動産を時効取得した占有者は、時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を了した第三者に対し、登記がなければ時効による権利取得を対抗できない。また、当該第三者が時効取得の事実について悪意であっても、背信的悪意者と評価される特段の事情がない限り、同様である。
問題の所在(論点)
不動産の取得時効完成後に、旧所有者から当該不動産を譲り受け登記を経由した第三者に対し、時効取得者が登記なくして所有権を対抗できるか。また、当該第三者が時効取得の事実を知っていたこと(悪意)が、その結論を左右するか。
規範
不動産の時効取得者と、時効完成後に旧所有者から当該不動産を譲り受けた第三者との関係は、対抗関係(民法177条)に立つ。したがって、時効取得者は、時効完成後の第三者に対しては、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。また、この第三者が時効取得の事実を知っていた(悪意)としても、それだけで同条の「第三者」に該当しないということはできない。
重要事実
1.上告人ら51名は、本件山林を占有し、昭和26年9月末日の経過をもって取得時効が完成した。2.被上告人Bは、時効完成後の昭和28年5月10日、本件山林の元所有者の相続人らから山林を買い受け、同月26日にその所有権移転登記を経由した。3.上告人らは、時効取得を原因とする所有権移転登記を経由していなかった。4.上告人らは、被上告人Bが時効取得の事実を知っていた悪意者であることを理由に、登記なくして対抗できると主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人らが時効により取得した本件山林の所有権は、昭和26年9月末日に成立した。しかし、被上告人Bは、時効完成後である昭和28年5月に本件山林を買い受け、登記を備えている。両者の関係は二重譲渡に類似した対抗関係にあり、民法177条が適用される。被上告人Bが上告人らの時効取得の事実につき悪意であったとしても、それのみでは信義則上登記の欠缺を主張し得ない背信的悪意者とはいえず、登記を欠く上告人らは自己の権利をBに対抗できない。また、Bが事前に所有権の帰属に関し交渉を行っていたとしても、直ちに第三者性を否定する事由にはならない。
結論
時効取得者は、時効完成後に登記を得た第三者に対し、登記がなければ時効による所有権取得を対抗できない。第三者が単なる悪意者である場合も、結論に変わりはない。
事件番号: 昭和37(オ)804 / 裁判年月日: 昭和38年11月15日 / 結論: 棄却
証拠を総合して事実を認定するに際し、証人の供述中に認定事実に反する趣旨の部分が存在していても、その部分を証拠として採用しなかつたことを判文上明示しなければならないものではない。
実務上の射程
時効と登記に関する基本判例(判例5原則の第2原則)。「時効完成後の第三者」に対しては、時効取得者は登記なくして対抗できないとする。司法試験においては、この原則を前提としつつ、第三者が単なる悪意を超えて「背信的悪意者」に該当する場合にのみ、例外的に登記なくして対抗できるとするのが通説的実務であるため、あてはめ段階で背信性の有無を検討する。なお、時効完成前の第三者については、当事者関係として登記不要とする(第1原則)点との峻別に注意が必要である。
事件番号: 昭和35(オ)232 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
代金支払が契約の数ケ月後であるとの一事によつては、登記欠缺を主張しえない背信的悪意者とはいえない。
事件番号: 昭和23(オ)53 / 裁判年月日: 昭和24年9月27日 / 結論: 棄却
ある土地につき実質上地上権を有せず登記簿上地上権として表示されているに過ぎない者は、右土地につき時効により地上権を取得した者に対し、その登記の欠缺を主張することができない。
事件番号: 昭和45(オ)939 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、所有権の取得を対抗できない(最高裁判所昭和三〇年(オ)第一五号、同三三年八月二八日第一小法廷判決、民集一二巻一二号一九三六頁)。