判旨
賃貸人の子が父である賃貸人の指示に基づき、賃借人との間で賃貸借契約を解除して建物の明渡しを受ける合意をした場合、その子は賃貸人の代理人として解除及び明渡しを受ける権利を有すると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
賃貸人の子(被上告人)が、所有者である父(D)に代わって賃貸借契約の解除を行い、自己を相手方として建物の明渡しを受ける合意をした場合、その合意は有効か。すなわち、被上告人が明渡しを受ける権利を有していたといえるかが問題となる。
規範
本件における規範は、本人(賃貸人)の指示に基づき、その親族等の関係者が本人の代理人として賃貸借の解除及び明渡しの交渉を行い、その合意(調停等)が成立した場合には、当該関係者は本人のために当該契約を解除し、自己の名において明渡しを受ける権限を適法に有するものと解される。
重要事実
本件家屋の所有者Dの長男である被上告人は、復員後に住宅に困窮したため、父Dの指示に基づき賃借人である上告人に対して明渡しを求めた。当初は代替家屋を上告人に提供したが、後にその代替家屋の返還を求められたため、借家調停が行われた。この調停において、被上告人は代替家屋を返還し、上告人は被上告人に対して本件家屋を明け渡す旨の合意が成立した。上告人は、本件家屋がDの所有であることを知悉した上でこの調停に応じていた。
あてはめ
被上告人は、所有者である父Dの「指示」によって上告人に明渡しを求めており、父の代理として行動していることが認められる。また、上告人は本件家屋がDの所有であることを「知悉」した上で調停に参加し、被上告人との間で明渡しの合意を形成している。このような経緯に照らせば、被上告人は父Dに代わって本件家屋の賃貸借を解除し、かつ自己のために(受領代理を含め)上告人から明渡しを受ける権利を適法に付与されていたと評価できる。
結論
被上告人は本件家屋の明渡しを受ける権利を有しており、本件調停に基づく明渡し請求は有効である。したがって、上告人の上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、明文の代理権授与の手続きが厳格に証明されずとも、家族関係と本人の「指示」という事実、および相手方の「知悉」という主観的事実を総合して、実質的な代理権の行使を認めた事例である。答案上は、賃貸借の解除における代理権の存否や、当事者適格が問題となる場面で、本人の指示という事実を基礎に代理関係を認定する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)457 / 裁判年月日: 昭和29年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者が誰であるかを確認し難い事情があり、債務者に履行の準備が整っていた場合には、履行遅滞の責めに帰すべき事由がないと解される。また、債権者の受領拒絶が確実な状況下での遅れた弁済提供であっても、信義則上有効な提供として認められ、債務不履行にはあたらない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、長…