判旨
売買契約において、代理人が本人に代わって契約を締結する旨を表示した事実は、本人のためにすることを示したものとして顕名(民法99条1項)が認められる。また、契約成立の単なる経過的事由は請求を理由あらしめる主要事実ではないため、当事者の主張と多少異なる事実を認定しても弁論主義には反しない。
問題の所在(論点)
1. 代理人が契約書に自己の名を記載した場合であっても、周囲の状況等から「本人のためにすること」を示したといえるか(顕名の成否)。2. 契約締結に至るまでの「経過的事情」について、当事者の主張と異なる事実を認定することは弁論主義に反するか。
規範
1. 顕名(民法99条1項)の要件たる「本人のためにすることを示す」とは、意思表示の相手方に対して、その法律効果を本人に帰属させようとする代理人の意思を明らかにすることをいう。2. 民事訴訟における弁論主義の適用範囲は、法律効果の発生に直接必要な事実(主要事実)に限られ、主要事実に至るまでの「経過的事情」については、裁判所は当事者の主張に拘束されず事実を認定できる。
重要事実
上告人(本人)の父Dが、上告人の代理人として被上告人(相手方)との間で本件売買契約を締結した。契約書(甲第1号証)にはD名義の記載があったが、諸般の証拠からDは上告人を代理する意図であった。被上告人は「上告人と折衝して了承を得た」等の交渉経過を主張していたが、裁判所はこれと多少異なる経過事実を認定した。上告人は、D名義の書面がある以上顕名がないこと、および当事者の主張しない経過事実を認定したことは違法であると主張して上告した。
あてはめ
1. Dが上告人の代理人として契約を締結した事実は、Dが上告人のためにすることを示してなしたものと解するのが相当である。相手方においてもDが上告人の代理人として契約していることを十分に認識していたといえるから、書面上の名義がDであっても顕名の効力は妨げられない。2. 被上告人が主張した「上告人と折衝して了承を得た」等の事実は、売買契約の成立という法律効果を導くための経過的事情にすぎない。これは請求を理由あらしめる主要事実ではないため、裁判所がこれに拘束されず事実を認定しても釈明権の不行使や弁論主義違反の問題は生じない。
結論
本件売買契約の代理権行使および顕名の事実は認められ、上告人に対し契約の効力が帰属する。また、経過的事実の認定に関する手続き上の違法も認められないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和24(オ)195 / 裁判年月日: 昭和26年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が長男を代理人として売買契約を締結させた事案において、代理権の存在を前提とした原審の事実認定を適法とした。 第1 事案の概要:上告人(本人)と被上告人の間で不動産の売買がなされた際、上告人の長男であるDが代理人として関与した。上告人は、本件登記は関知しない無効なものであり、Dが不身持で自宅に寄…
実務上の射程
顕名については、書面上の名義だけでなく周囲の諸事情から相手方が代理関係を認識し得たかという観点(民法99条1項の解釈)で論じる際の根拠となる。実務・答案上、主要事実(売買の合意、代理権授与等)と間接事実・補助事実(交渉経過等)を峻別し、弁論主義の適用範囲を主要事実に限定する際の標準的な判例として活用できる。
事件番号: 昭和25(オ)251 / 裁判年月日: 昭和28年6月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が人証と書証を総合して事実認定を行うことは、個々の証拠が直接的に特定の事実を証明するに足りない場合であっても、自由心証主義の範囲内として許容される。 第1 事案の概要:上告人は、本件売買契約について証書の作成や代金の受取証が存在しないことを指摘。原審が認定の根拠とした人証は被上告会社の利害関…
事件番号: 昭和32(オ)473 / 裁判年月日: 昭和35年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当な理由」の存否については、代理人と称する者の署名形式のみならず、周囲の諸客観的事実を総合的に考慮して判断されるべきである。 第1 事案の概要:訴外Dは、本人である上告人を代理して、被上告人との間で本件売買契約を締結した。しかし、当該契約に係る売渡証書(甲一号証)におい…
事件番号: 昭和24(オ)120 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
当事者が贈与による所有権の取得を主張する場合、裁判所が右主張に基いて贈与の事実を認定している以上、贈与者がその物の所有権を取得するに至つた経過について、当事者の主張と異なる認定をしていても、当事者の申し立てない事項について裁判したものとはいえない。
事件番号: 昭和41(オ)855 / 裁判年月日: 昭和42年1月26日 / 結論: 棄却
売主甲の代理人乙と買主丙との間に売買契約が成立したとの主張に対し、甲の代理人丁が乙の仲介により丙との間に当該売買契約を成立させた事実を認定した点に弁論主義違反の違法はない。