当事者が贈与による所有権の取得を主張する場合、裁判所が右主張に基いて贈与の事実を認定している以上、贈与者がその物の所有権を取得するに至つた経過について、当事者の主張と異なる認定をしていても、当事者の申し立てない事項について裁判したものとはいえない。
当事者の申し立てない事項について裁判したことに当らない一事例
民訴法186条
判旨
弁論主義の下においても、主要事実の発生原因となる間接的事実(事実の来歴等)については、裁判所は当事者の主張に拘束されず、証拠に基づき当事者の主張と異なる事実を認定することができる。
問題の所在(論点)
権利発生の根拠となる主要事実(贈与)の成立を認定する際、その前提となる事実の来歴や詳細な日時について、裁判所は当事者の主張に拘束されるか(弁論主義の適用範囲)。
規範
裁判の基本となる事実(主要事実)は当事者の主張を基礎として確定しなければならない。しかし、右事実の来歴等の事実は、裁判所が証拠により当事者の主張と異なる事実を認定することを妨げない。また、権利の発生を認定するにあたり、契約の申込・承諾の具体的日時までを明示する必要はない。
重要事実
被上告人が贈与者Dから本件家屋の贈与を受け所有権を取得したと主張して訴えを提起した。原審は、Dが家屋を取得した経緯(事実の来歴)について、被上告人の主張と異なる事実を認定した上で、Dから被上告人への贈与による所有権移転を認めた。上告人は、当事者が主張していない事実を認定した点や、贈与の具体的日時が不明である点が弁論主義に反すると主張した。
事件番号: 昭和31(オ)1033 / 裁判年月日: 昭和33年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白が成立するのは主要事実に限られ、間接事実に関する自白には拘束力が生じない。また、自由心証主義の下では、間接事実が存在したとしても、裁判所が直ちに主要事実を認定すべき義務を負うものではない。 第1 事案の概要:上告人は、Dから上告人への贈与契約が成立したと主張したが、原審はその主張を排斥…
あてはめ
本件における贈与者Dの所有権取得の経過や家屋の管理に関する事実は、判決の基本となる主要事実そのものではなく、主要事実(贈与による所有権取得)を推認させるための事実にすぎない。したがって、裁判所がこれらについて被上告人の主張と異なる認定をしても、最終的に「Dからの贈与」という主要事実を認定している以上、申立てのない事項について裁判した違法はない。また、贈与契約の成立を認定する上で、申込・承諾の各日時を厳密に特定することは必須ではない。
結論
主要事実の背景事情や間接的事実について、裁判所が当事者の主張と異なる認定をすることは弁論主義に反しない。また、契約成立の主要事実を認定する際、必ずしも日時の明示は要しない。
実務上の射程
弁論主義の対象となる事実を「主要事実」に限定する判例法理(主要事実説)の根拠となる事例。答案では、裁判所による「主張外の事実認定」が問題となる際、当該事実が主要事実か間接的事実(来歴・補助事実)かを区別し、後者であれば自由な認定が可能であると論じる際の論拠として用いる。
事件番号: 昭和24(オ)65 / 裁判年月日: 昭和24年7月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴訟物たる権利関係に直接関係のない間接事実は、判決書において必ずしも摘示することを要しない。また、証人の証言が当事者の親族によるものであることのみをもって、その信用性を否定すべき実験則は存在しない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)に対し、貸金債権の存在を主張してその支払いを求め…
事件番号: 昭和25(オ)129 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、証拠の採否について自由な心証を有するものであり、採用しなかった証拠についてその理由を判決書に記載する必要はない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が特定の証人の証言を採用しなかったにもかかわらず、その理由を説明しなかったことは違法であると主張して上告した。また、訴訟物の価格の算定、事実認…
事件番号: 昭和29(オ)894 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
いわゆる間接事実についての自白は、裁判所を拘束しない。
事件番号: 昭和39(オ)900 / 裁判年月日: 昭和40年2月11日 / 結論: 棄却
「被上告人が甲を代理人とし一二月初め代物弁済予約完結の意思表示をした」との主張に対し、裁判所が、被上告本人が一二月二七日頃代物弁済予約完結の意思表示をしたと認定しても、弁論主義に反しない。