判旨
正当な権限に基づき、特定の団体を表示した他人の名において手形を振り出した者は、特段の事情がない限り、個人として手形上の義務を負わない。団体が民法上の組合である場合も、手形上の責任を負うのは組合員自身であって、権限ある代理人として振出行為をした個人ではない。
問題の所在(論点)
正当な権限に基づき、団体名義(他人の名)を用いて手形を振り出した行為者個人が、当該手形上の義務を負うか。特に団体が民法上の組合に該当する場合、代理人として振出行為をした者が当然に責任を負うかが問題となる。
規範
手形行為が正当な代理権または代表権に基づき、特定の他人の名(団体名を含む)で行われた場合、その手形上の債務は本人に帰属し、行為者個人は手形債務を負わない。たとえ振出人が当該団体の会長等の肩書を付して署名した場合であっても、それが他人の名における振出であると認められる以上、別段の事由がない限り、行為者自身が手形債務を負担することはない。
重要事実
被上告人は、法人格のない申合せ団体であるD協会の会長であった。昭和23年6月7日、被上告人は「D協会長 E(被上告人名)」の名義をもって、訴外株式会社F会を受取人とする約束手形を振り出した。上告人は、同社から当該手形の裏書譲渡を受け所持していたが、満期に支払を呈示したものの拒絶された。そこで、上告人は振出行為者である被上告人個人に対し、手形金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
本件において、被上告人は正当な権限に基づき、D協会という他人の名において本件手形を振り出しており、被上告人個人は振出人本人ではないことが明白である。D協会の法律上の性質が民法上の組合であると仮定しても、手形債務を負うのは組合員自身である。行為者である被上告人は、権限ある代理人の資格において手形行為を行っているにすぎない。また、被上告人自身が手形上の義務を負担すべき別段の事由(無権代理等の主張)についても、特段の主張立証がなされていない。
結論
被上告人個人は手形上の義務を負わない。したがって、上告人の請求を棄却した原判決は正当である。
実務上の射程
手形の振出人が「代理人」であることを明示している場合(顕名がある場合)の責任帰属を明確にした。答案上は、手形行為の代理(手形法8条参照)や、組合名義の手形行為の効力が誰に帰属するかを論じる際の根拠として活用できる。特に「機関個人が責任を負わない原則」を確認する判例として位置づけられる。
事件番号: 昭和33(オ)990 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】組合名義の使用を包括的に承認していた者が、その名義を用いて振り出された手形について、支払義務を負うと判断された事例である。 第1 事案の概要:訴外Dは、上告人(組合)から、巾着網漁業に必要な取引について上告人組合名義を使用することを承認されていた。Dはこの名義を用いて本件手形を振り出した。被上告人…