判旨
裁判所が証拠調べの申請に対し明示的な採否の決定をせず結審しても、訴訟指揮の経過から黙示的に排斥したと認められ、かつ代替的な立証措置が講じられている場合は違法ではない。また、理由中で「争いがない」と誤記されていても、実質的に判断が示されていれば理由不備には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 証人尋問の申請に対し、裁判所が明示的な採否の決定をせずに結審したことが、証拠法則に違反するか。 2. 当事者が否認している事実について、判決理由中で「争いがない」と判示しつつ、別途その点について判断を示すことが、理由不備または理由の矛盾(民事訴訟法旧395条、現312条2項6号等)となるか。
規範
1. 証拠調べの申請に対する採否の決定は、必ずしも明示的に行うことを要せず、訴訟指揮及びその経過に照らし、当該申請を取り調べる必要がないものとして黙示的に排斥したと認められる場合には、手続上の違法は存しない。 2. 判決文の理由中に「当事者間に争いがない」との誤記があっても、判決の他の部分で当該主張について証拠による判断が示されている場合には、事実認定の不備や理由の矛盾には当たらない。
重要事実
上告人(被告)は、報酬契約の存在を否定し、仮に存在するとしても「10日以内に売買が成立し代金支払があった場合」という条件付きであると主張した。原審は、上告人が申請した証人Dの尋問につき採否の決定をせず結審したが、代わりに上告人本人を尋問した。また、原判決の冒頭では報酬契約に「争いがない」と記載されていたが、判決の後半部分では上告人の主張(条件の存在)を証拠に基づき判断し、排斥していた。
あてはめ
1. 証拠申請の排斥について:原審は明示の決定はしていないが、訴訟の指揮過程から黙示的に排斥したものと認められる。また、同一の立証事項について上告人本人の尋問を実施しており、唯一の証拠を調べずに主張を排斥したとはいえないため、採証法則違反はない。 2. 理由の矛盾について:原判決冒頭の「争いがない」との記載は、上告人の否認を無視したかのように見えるが、判決の後半で証拠に基づき詳細な判断を加えて上告人の主張を退けている。したがって、裁判所が当該事実を「争いなし」として処理したわけではないことが明白である。
結論
本件上告は棄却される。原審の手続および事実認定に、証拠法則違反や判決理由の矛盾といった違法は認められない。
実務上の射程
実務上、証拠申請への不作為が直ちに違法となるわけではなく、黙示的な排斥の有無や代替立証の有無が重要となる。また、判決書の一部に不適切な表現(「争いがない」等)があっても、判決全体を通じて実質的な判断がなされていれば、理由不備として破棄されることはないという判断の枠組みを示している。
事件番号: 昭和26(オ)302 / 裁判年月日: 昭和29年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】条件の成就によって利益を受けるべき者が、相手方の妨害によってその条件の成就を妨げられたと主張して損害賠償を請求する場合、相手方が故意に条件の成就を妨げたという事実が認められない限り、当該請求は認められない。 第1 事案の概要:上告人(報酬請求権者)は、被上告人との間で特定の条件が成就した場合に報酬…