投票紙自体の記載体樣其他選舉當時の諸般の事情等から見て本件係争の二票は選舉人が不慣れの爲め、初め記載の場所を間違えて候補者の氏名を記載したが、後でそれに氣付いてこれを訂正する目的で、正規の場所即候補者氏名記載欄に再び記載したもので、他意あるものではないと認定したものであることは、原判文上明である、而して右の樣な資料によつて右の樣な認定が爲し得られる場合には、其投票を有効のものと解すべきであるとの原審の見解は相當である。
二重に候補者の氏名を記載した投票の効力
町村制25條6號
判旨
投票者が記載場所を間違えて候補者氏名を記載した後に、正規の記載欄へ書き直した投票について、投票紙の記載体様や諸般の事情から他意がないと認められる場合は、選挙人の意思を尊重し有効とすべきである。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の投票の有効性に関し、記載場所を誤って二重に氏名を記載した投票について、選挙人の意思を尊重して有効と認めることができるか。
規範
投票の有効・無効の判断にあたっては、投票の秘密を侵さない範囲で、投票紙自体の記載体様その他選挙当時の諸般の事情等の客観的な資料に基づき、選挙人の真意を探求すべきである。選挙制度の趣旨は多数者の意思を尊重することにあるから、記載の訂正を目的とした二重記載であって「他意あるもの」と認められない限り、選挙人の意思を重んじて当該投票を有効と解するのが相当である。
重要事実
選挙において、係争となった2票の投票用紙には、候補者の氏名が2箇所に記載されていた。具体的には、選挙人が不慣れであったために、初めは記載場所を間違えて候補者氏名を記載したが、その後に間違いに気付いて、訂正する目的で正規の候補者氏名記載欄に再び氏名を記載したという状態であった。この投票について、他意がある(特定の記号や無効事由に該当する)ものか、それとも有効な投票かが争われた。
あてはめ
本件の2票は、投票紙の記載体様や選挙当時の状況に照らせば、選挙人が単に不慣れから記載場所を誤ったに過ぎず、後に正規の欄へ書き直したものであると認められる。このような訂正目的の再記載は、投票者を特定させるための符号などの「他意」に基づくものではない。現下のわが国の選挙の実情に照らせば、このような程度の記載ミスは、選挙人の真実の意思を推認するに足りるものであり、これを無効とすることは多数者の意思を尊重する選挙制度の趣旨に反する。
結論
本件の投票は有効である。訂正目的で二重に氏名を記載したとしても、他意がないと認められる以上、選挙人の意思を尊重すべきである。
実務上の射程
自書式投票における「無効投票」の該当性を判断する際の基本原則を示す。投票の秘密(誰が投票したか)を探索することは許されないが、記載そのものや外形的状況から「誤記の訂正」と合理的に判断できる場合は、有効性を広く認める方向で機能する。
事件番号: 昭和27(オ)353 / 裁判年月日: 昭和27年8月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙において氏名の一部が異なる「A正」と記載された投票は、候補者「A忠一」に対する有効な投票とは認められない。 第1 事案の概要:選挙において、候補者「A忠一」が存在した。これに対し、投票用紙に「A正」と記載された投票がなされた。上告人は、当該投票が「A忠一」への有効な投票としてカウントされるべき…
事件番号: 昭和31(オ)734 / 裁判年月日: 昭和31年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の自書式投票において、候補者の氏名の一部に誤記がある場合であっても、全候補者の氏名との照合により特定の候補者に対する投票の意思が客観的に認められるときは、当該投票は有効である。 第1 事案の概要:本件選挙において、ある投票用紙に記載された氏名の「氏」は「D」であり、「名」の二字のうち一…
事件番号: 昭和23(オ)31 / 裁判年月日: 昭和23年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙における違反行為が認められる場合であっても、それが著しく選挙の公正を害し、または選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合でない限り、当選または選挙は無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、当選人である原正則が「書記」の地位にあったとして、その被選挙権の欠如や選挙の無効を主張した。しかし…
事件番号: 昭和23(オ)34 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴状に委員長の名前が併記されていても、訴状全般の内容から選挙管理委員会を被告とする意図が明白であり、当事者双方がそれに応じて訴訟を遂行した場合は、委員会を被告と解して差し支えない。また、投票の有効性は、文字の不鮮明さや他候補者の存在を総合考慮し、通常人が判読し得ないものは無効と判断される。 第1 …