判旨
私文書の印影が本人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、当該文書は本人の意思に基づき作成されたものと推定され、その真正成立が認められる。
問題の所在(論点)
私文書における印影の真正が認められる場合、署名等の他の部分が本人以外の者によって記載されていたとしても、当該文書全体の成立の真正を推定することができるか。
規範
文書の真正成立について、私文書における本人の捺印が真正なものであることが認められるときは、反証のない限り、その文書の全体が真正に成立したものと推認することができる(民事訴訟法228条4項に関連する二段の推定)。
重要事実
上告人と被上告人との間の保険契約の効力期間が争点となった事案において、原審は特定の書証(保険申込書等)を証拠として採用した。上告人は、当該書証に自身の捺印があることは認めたものの、署名やその他の記載内容は他者が記入したものであるとして、その成立を争い、代理店の慣例等を理由に反証を試みた。
あてはめ
上告人は文書上の捺印が自己のものであることを認めている。これに対し、上告人は「署名捺印以外の部分は勧誘員が記載するのが慣例である」旨の証言を反証として提出したが、これは単に現実の記載担当者を述べるに過ぎず、本人の意思に基づかない無断作成を裏付けるものではない。したがって、反証が成功したとはいえず、捺印の真正から文書全体の成立の真正を推認した原審の判断は適法である。
結論
印影が真正であれば、反証がない限り文書全体の真正成立が推定される。本件では有力な反証がないため、当該書証の証拠能力は認められる。
実務上の射程
実務上の「二段の推定」のうち、第一段階(印影の真正→作成意思の推定)および第二段階(作成意思の推定→文書全体の真正成立)を認めたリーディングケース。捺印の事実さえ認められれば、本文が代筆であっても、有効な反証がない限り文書の成立が認められるという強力な推定力が働くことを示している。
事件番号: 昭和34(オ)693 / 裁判年月日: 昭和35年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】文書の真正は、挙示された証拠資料に基づき原審の専権事項として判断されるべきものであり、印顆の盗用等の反証がない限り、その成立を肯定することができる。 第1 事案の概要:上告人は、提出された証拠(甲2、3、4号証の1)が真正に成立したものではないと主張した。具体的には、印章が盗用されたものであること…