建物が二重に譲渡され、一方の譲受人が登記を経由し、他方の譲受人は、無効な登記にもとづく登記を有するにすぎないときは、右建物所有者として、その建物を目的とする火災保険契約を締結するについて、被保険利益を有しない。
無効な取得登記を有するにすぎない建物の二重譲受人と被保険利益。
商法630条,民法177条,民法176条
判旨
建物の所有権者として火災保険契約を締結した者が、当該建物につき登記を経由しておらず、他に第三者に対抗しうる所有権者が存在する場合には、当該契約者は被保険利益を欠き、保険契約は無効となる。
問題の所在(論点)
建物の所有権を被保険利益として保険契約を締結した者が、登記未了のため第三者に対して所有権を対抗できない場合、当該保険契約における被保険利益が認められるか。
規範
損害保険契約における被保険利益は、保険事故の発生により損害を被るおそれのある適法な経済的利益でなければならない。建物の所有権を前提とする保険契約において、当該建物の所有権につき登記未了であり、かつ別に有効な登記を備えた第三者が存在する場合、当該契約者は対抗要件(民法177条)を欠くため、保険事故による損害を主張しうる法的地位にあるとはいえず、被保険利益を欠くものと解するのが相当である。
重要事実
上告人は、自己が建物の所有権者であるとして被上告人(保険会社)との間で火災保険契約を締結した。しかし、当該建物については、訴外Dが前主から譲渡を受け、昭和26年に既に所有権移転登記を経由していた。上告人は本件建物につき登記を備えておらず、Dに対して自己の所有権を対抗できない状態であった。その後、保険契約の無効が争点となった。
あてはめ
本件において、上告人は建物の所有権を有すると主張して保険契約を締結したが、登記を備えていない。一方で、第三者であるDが適法に所有権移転登記を経由しており、対抗関係において上告人はDに劣後する。被上告人が保険契約を締結した事実があるからといって、直ちに被上告人が上告人を真実の所有者と認め、登記の欠缺を主張する権利を放棄したとは解されない。したがって、上告人は第三者に対抗しうる所有権を有しない以上、当該建物の滅失により経済的損害を被るべき適法な地位にあるとはいえず、被保険利益を欠くといえる。
結論
上告人は被保険利益を欠くため、本件火災保険契約は無効である。
実務上の射程
建物の所有権を目的とする損害保険において、対抗要件(登記)の有無が被保険利益の存否に直結することを示した事例である。答案上は、被保険利益の適法性・有効性を論じる際に、民法177条の対抗関係と絡めて、適法な権利関係に基づかない利益は保護されないという文脈で使用する。ただし、占有権や賃借権など他の利益に基づく構成の可否については別途検討が必要となる点に留意する。
事件番号: 昭和32(オ)1102 / 裁判年月日: 昭和36年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の買受人は、売主が登記簿上の所有名義人であっても、当該売主が実体上の所有権を有しない場合には、善意・悪意を問わず、民法94条2項等の特別の規定がない限り、当該不動産の所有権を取得できない。 第1 事案の概要:上告人(買受人)は、本件建物の登記簿上の所有名義人である売主から建物を買い受けた。し…