判旨
賃借人が賃貸借終了に伴う目的物返還義務を履行できない場合、火災が不可抗力等の債務者の責めに帰すべからざる事由によるものであることを賃借人側で立証しない限り、善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を免れない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約における目的物返還債務が火災により履行不能となった場合、賃借人が損害賠償責任を免れるための帰責事由の不存在(無過失)に関する立証責任は、いずれの当事者が負うか。
規範
賃借人は、善良なる管理者の注意をもって賃借物を管理すべき義務(民法400条)を負う。賃借物の滅失・毀損により返還義務が履行不能となった場合、賃借人はその不能が自己の責めに帰すべからざる事由(不可抗力その他やむを得ない事由)に基づくものであることを立証しない限り、債務不履行に基づく損害賠償責任を免れることができない。
重要事実
Dが所有し上告人が賃借していた家屋の2階部分が、出火により焼失した。Dは上告人に対し、善管注意義務違反に基づく損害賠償を求めた。原審は、第三者の過失による出火であるとの事実は認められないとした一方、上告人が本件火災が不可抗力等によるものであることを立証していないとして、上告人の賠償責任を認めたため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
上告人は賃借人として、目的物について善管注意義務を負っている。本件において、家屋の焼失という返還義務の履行不能が発生しているところ、上告人は当該火災が不可抗力等のやむを得ない事由によるものであることを立証した形跡が記録上認められない。したがって、上告人は善管注意義務を免れたとはいえず、当該火災によって生じた損害を賠償すべき義務を負うと判断される。
結論
賃借人が火災による履行不能について不可抗力等の免責事由を立証できない以上、賃借人は債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
賃貸借における目的物返還義務の不履行に関し、帰責事由の不存在(評価的障害事実)についての立証責任が債務者(賃借人)側にあることを明示した典型例。答案上は、民法412条の2第1項および415条1項ただし書の解釈として、履行不能時の立証責任を論ずる際に活用する。
事件番号: 昭和32(オ)716 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃貸借契約の解約申入れにおける正当事由の有無は、諸般の事実関係を総合的に考慮して判断されるべきであり、本件では正当事由がないとした原審の判断が維持された。 第1 事案の概要:本件は、建物賃貸人である上告人が賃借人に対し、賃貸借契約の解約申入れを行った事案である。上告人は解約に正当な事由がある…