判旨
賃貸借契約において賃料の受領遅滞を理由に履行遅滞の責を免れ、契約解除の無効を主張するには、債務者が受領遅滞の事実を主張・立証する必要がある。また、特定の期間の賃料について受領拒絶の意思が明白であっても、直ちに他の期間の賃料債務について受領遅滞を当然に認めるべきではない。
問題の所在(論点)
賃借人が賃料不払に基づく解除を拒むため、賃借人の受領遅滞(民法413条)を抗弁として主張する場合、その主張・立証責任は誰が負うか。また、将来の賃料等に関する受領拒絶の意思が明白な場合、過去の全期間の賃料についても一律に受領遅滞が認められるか。
規範
債務者が債権者の受領遅滞を理由として、自己の履行遅滞に基づく契約解除の無効を主張するためには、その前提となる受領遅滞の事実(弁済の提供または提供を不要とする事情)について、債務者側において主張・立証責任を負う。また、一部の債務について債権者の不受領の意思が明白であっても、それ以外の債務について当然に受領遅滞の責を認めることはできない。
重要事実
賃料債務者(上告人)が、賃料の不払を理由とする賃貸借契約の解除の無効を争った事案である。上告人は、昭和30年5月から昭和31年12月までの賃料について、賃料債権者(被上告人)に受領遅滞の責任があることを前提としていたが、記録上、当該期間の賃料債務については相殺を主張するにとどまり、受領遅滞の事実自体については何ら主張・立証を行っていなかった。
あてはめ
本件において、上告人は特定の期間の賃料債務に関し受領遅滞の事実を主張・立証していない。裁判所が釈明権を行使したり職権で審究して解除の有効性を判断すべき義務はない。さらに、原審が後の期間の賃料債務について受領遅滞を認めたからといって、その前の期間の賃料債務についても同様に債権者が受領遅滞の責を負うと判断すべき法的拘束力はない。したがって、主張・立証がない以上、受領遅滞による履行遅滞の阻却を認めることはできない。
結論
受領遅滞の事実は債務者(上告人)が主張・立証すべきであり、その立証がない以上、履行遅滞に基づく契約解除は有効である。上告棄却。
実務上の射程
契約解除の有効性を争う実務において、受領遅滞による履行遅滞阻却の抗弁は、債務者側が事実レベルで具体的に立証しなければならないことを示した。特に、継続的契約において「一定期間の受領拒絶」から「全期間の受領遅滞」を当然に推認することはできないため、期間ごとの提供の有無や受領拒絶の意思を精査する際の根拠となる。
事件番号: 昭和35(オ)1149 / 裁判年月日: 昭和37年6月8日 / 結論: 棄却
正当事由に基づく家屋受渡請求事件において、被告(賃借人)先代が賃料につき提供も供託もしていないことをもつて、他人の家屋を使用する者として信義に反する旨の主張が原告(賃貸人)によつてなされ、被告が右事実を認めたが、右賃料についてはその後被告はこれを供託した旨陳述し、これに対し原告がその点を争わないと述べているときは、原告…