判旨
賃料の催告が公序良俗に反する暴利行為に該当するか否かは、債務者の窮迫に乗じたものといえるか等の諸事情を総合して判断すべきであり、単に長期間の賃料取得を目的とするのみでは直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
賃貸人による賃料支払の催告が、賃借人の窮迫に乗じた暴利行為(民法90条)として無効、あるいは信義則に反し無効となるか。また、受領拒絶の意思が明白な場合の弁済提供の要否が問題となる。
規範
公序良俗(民法90条)に反する暴利行為として無効とされるためには、単に利得が過大であるだけでなく、相手方の窮迫、軽率または無経験に乗じて不当な利益を得るという主観的・客観的要件を充足する必要がある。また、債務不履行に基づく催告が暴利行為に該当するかは、催告の態様や目的が社会通念上著しく相当性を欠くか否かによって決せられる。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)が行った本件賃料の催告が、上告人の窮迫に乗じた暴利行為であり、かつ「10年以上の間賃料の収得を目的とした」不当なものであると主張した。また、上告人は弁済の提供をしたが被上告人が受領を拒否する意思が明白であったとも主張し、催告の有効性および債務不履行の有無を争った。
あてはめ
本件において、被上告人がした賃料の催告は、上告人の窮迫に乗じたものとは認められず、暴利行為には当たらない。また、被上告人が「10年以上の間賃料の収得を目的とした」という事情があったとしても、それのみをもって直ちに暴利行為の主張とは別個の独立した違法事由とは評価できない。さらに、証拠上、被上告人に弁済を受領しない意思が明白であったとは認められないため、弁済提供の免除等の主張も採用できない。
結論
本件賃料催告は有効であり、これに応じなかった上告人の債務不履行を理由とする賃貸借契約の解除等の判断は正当である。
実務上の射程
暴利行為の主張における「窮迫」等の主観的要件の重要性を確認する事例である。実務上、長期間の不払いを放置した後の催告であっても、直ちに権利濫用や暴利行為とされるわけではなく、債務者側の属性や催告に至る具体的経緯を厳格に検討すべきことを示唆している。
事件番号: 昭和37(オ)985 / 裁判年月日: 昭和40年7月29日 / 結論: 棄却
催告賃料額が適正賃料額の約三、六倍であり、たとえ債務者が適正賃料額を提供しても債権者が受領を拒絶したであろうことが推認できる事情のもとでは、右催告は過大催告としてその効力が生じないというべきである。