判旨
上告審においては、職権調査事項を除き、原審で主張されなかった新たな事実を主張して上告理由とすることは許されない。小切手の原因関係に基づく抗弁事由が原審で主張されなかった以上、これを上告審で主張することはできず、原審がこれを審理しなかったことに違法はない。
問題の所在(論点)
原審の口頭弁論終結後に判明した、小切手の原因関係に関する抗弁事実を、上告審において新たな事実として主張し、原判決の違法を問うことができるか。また、かかる事実は職権調査事項に該当するか。
規範
上告審は、原則として原審において現出された訴訟資料に基づき、原判決の当否を判断する事後審である。したがって、裁判所の職権調査事項(管轄、当事者能力、訴訟適法性の要件等)に関するものを除き、原審に提出されていない新たな事実を主張して上告の理由とすることは許されない。また、当事者が主張しない事実について原審が審理を行わないことは、弁論主義の原則に照らし適法である。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)から譲渡された保険金(新円受取を目的とする協定に基づくもの)の支払として本件小切手の交付を受けたが、支払拒絶に遭ったため、上告人に対し小切手金の支払を求めて提訴した。一審・二審ともに上告人が敗訴したが、上告人は二審口頭弁論終結後に、本件の戦災保険金支払を解消する法令が発布されていたことを知った。上告人は、当該法令により保険金支払が解消されたため小切手金の支払義務も消滅したと主張し、原審がこの点につき職権調査や釈明権行使を怠ったことは審理不尽・理由不備の違法があると主張して上告した。
あてはめ
上告人が主張する「戦災保険金支払解消の法令に基づく支払義務消滅」という事実は、小切手振出の原因関係に基づく抗弁事由にすぎない。かかる事実は、裁判所が自ら調査すべき職権調査事項には該当しない。記録上、上告人が原審においてこの事実を全く主張していなかったことは明らかである。したがって、たとえ上告人が二審判決後にその事実を知ったとしても、事後審である上告審において新事実として持ち出すことは認められない。原審が当事者の主張しない事実について審理しなかったことも、弁論主義に鑑み当然であり、釈明権の不行使等の違法は存在しない。
結論
本件上告は棄却される。職権調査事項でない新事実の主張は上告理由とならず、原判決に審理不尽の違法はない。
実務上の射程
民事訴訟における上告審の法律審・事後審としての性質を、事実主張の制限の観点から明確にした判例である。答案上は、弁論主義の下で当事者が主張すべき抗弁事由(本件では原因関係の消滅)は、上告審での新主張が封じられること、および職権調査事項の範囲が限定的であることを論述する際に用いる。また、釈明権行使の限界(当事者が全く主張しない事実を裁判所が拾い上げる義務はない)を示す際にも活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)1064 / 裁判年月日: 昭和33年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相殺の抗弁において自働債権の存在が認められない場合には、相殺による債務の消滅という効果は生じず、当該抗弁に基づく主張は理由がないものとして排斥される。 第1 事案の概要:上告人は、原審において相殺の抗弁を主張したが、原判決(二審)は、上告人が相殺に供したとされる自働債権(所論相殺債権)の存在自体を…