外国人登録法(昭和六二年法律第一〇二号による改正前のもの)に定める指紋押なつを拒否した者について、その生活は安定したものであったことがうかがわれ、また、指紋押なつをしなかったとの事実を自ら認めていたことなどからすると、逃亡のおそれ及び右事実に関する罪証隠滅のおそれが強いものであったということはできないが、同人が司法警察職員から五回にわたって任意出頭するように求められながら、正当な理由がなく出頭せず、その行動には組織的な背景が存することがうかがわれたなど判示の事情の下においては、同人に対する逮捕状の請求及び発付につき、明らかに逮捕の必要がなかったということはできない。
外国人登録法(昭和六二年法律第一〇二号による改正前のもの)に定める指紋押なつを拒否した者に対する逮捕状の請求及び発付につき明らかに逮捕の必要がなかったということはできないとされた事例
刑訴法199条1項,刑訴法199条2項,刑訴規則143条の3,外国人登録法(昭和62年法律102号による改正前のもの)14条1項,外国人登録法(昭和62年法律102号による改正前のもの)18条1項8号,国家賠償法 1条1項
判旨
裁判官が逮捕状を発付する際、明らかに逮捕の必要がないと認めるときを除き、被疑者の逃亡・罪証隠滅のおそれを考慮して発付を決定できる。また、国家賠償法一条一項の適用上、逮捕状請求・発付の要件を充足する限り、当該行為が違法とされる余地はない。
問題の所在(論点)
国家賠償法1条1項の適用上、逃亡のおそれや直接的な罪証隠滅のおそれが低い事案において、逮捕状の請求および発付行為が「違法」と評価されるか。特に「逮捕の必要性」の判断枠組みが問題となる。
規範
逮捕状発付の要件として、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる「相当な理由」に加え、「逮捕の必要性」が求められる(刑訴法199条2項)。裁判官は、被疑者の年齢・境遇・犯罪の軽重・態様等に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ罪証を隠滅するおそれがない等「明らかに逮捕の必要がない」と認める場合を除き、請求を却下できない(刑訴規則143条の3)。ここでいう罪証隠滅の対象には、被疑事実そのものに限らず、公訴提起の判断や量刑に参酌されるべき事情に関する証拠も含まれる。
重要事実
韓国籍の永住者であるXは、外国人登録法に基づく指紋押なつを拒否した。警察はXに対し5回にわたって任意出頭を求めたが、Xは正当な理由なくこれに応じなかった。また、弁護人を通じて陳述書等を提出したが、組織的な背景を伴う活動としての側面を有していた。警察官は逮捕状を請求し、裁判官はこれを発付した。Xは逮捕が「逮捕の必要性」を欠き違法であるとして、国および京都府に対し国家賠償を請求した。
あてはめ
Xは生活基盤が安定しており、指紋押なつ拒否の事実自体は証拠が揃っていたため、逃亡や犯行事実の隠滅のおそれは強くなかった。しかし、Xは5回に及ぶ任意出頭要請に正当な理由なく応じなかった。また、犯行には組織的な背景がうかがわれ、量刑事情に関連する証拠の隠滅のおそれも否定できない。これらの事情に照らせば、「明らかに逮捕の必要がない」とはいえず、裁判官および警察官の判断が刑訴法等の定める要件を欠くとは認められない。
結論
本件逮捕状の請求および発付は、刑訴法および刑訴規則の定める要件を満たし適法である。したがって、国および京都府に国家賠償法上の賠償責任は生じない。
実務上の射程
逮捕の必要性の判断において、単に「逃亡しない」というだけでなく、任意捜査への協力状況や、主観的な量刑事情(組織的背景等)に関する罪証隠滅の可能性も考慮要素となることを示した判例である。行政法上の国家賠償請求の文脈だけでなく、刑事訴訟法上の逮捕の要件(規則143条の3)の解釈としても重要な意義を持つ。
事件番号: 平成4(オ)77 / 裁判年月日: 平成8年3月8日 / 結論: 破棄自判
司法警察員による被疑者の留置は、司法警察員が、留置時において、捜査により収集した証拠資料を総合勘案して刑訴法二〇三条一項所定の留置の必要性を判断する上において、合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず、あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り、国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受け…