一 甲は、丙男と丁女との婚姻成立の日から二〇〇日以後に出生した子であるが、丁女が甲を懐胎した時期には丙男は出征中であって丁女が丙男の子を懐胎することが不可能であったことは明らかであるから、実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子であり、また、甲の出生から四十数年を経過して丙男が死亡した後にその養子である乙が丙男と甲との間の父子関係の存否を争うことが権利の濫用に当たると認められるような特段の事情は存しないなど判示の事情の下においては、乙が甲を被告として提起した親子関係不存在確認の訴えは、適法である。 二 (意見がある。)
婚姻成立の日から二〇〇日以後に出生した子を被告として父親の死亡後にその養子が提起した親子関係不存在確認の訴えが適法とされた事例
民法772条,人事訴訟手続法第2章親子関係事件ニ関スル手続
判旨
婚姻中に懐胎した子であっても、夫が戦地に出征しており妻が夫の子を懐胎することが不可能であったことが外観上明白な場合には、民法772条の推定を受けない。この場合、特段の事情がない限り、親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係を争うことができる。
問題の所在(論点)
民法772条の推定を受ける期間内に生まれた子について、出征等の事情により夫の子を懐胎し得ないことが明らかな場合に、親子関係不存在確認の訴えによりその父子関係を否定できるか。また、夫の死後にその相続人(養子)が当該訴えを提起することは許されるか。
規範
民法772条により婚姻中に懐胎したと推定される子であっても、懐胎期間中に夫が浮気等の事実により子を懐胎できないことが外観上明白な場合には、同条の推定は及ばない。このような「推定を受けない嫡出子」については、民法774条の嫡出否認の訴えによらずとも、親子関係不存在確認の訴えにより、利害関係人からその父子関係を争うことが可能である。ただし、当該訴えの提起が権利の濫用に当たるような特段の事情がある場合はこの限りではない。
重要事実
上告人の母丁は、夫丙が出征中に他男と性的関係を持った。丙が戦地から帰還したのは昭和21年5月28日であるが、上告人は同年11月17日に出生した。当時の医療水準および統計によれば、帰還当日の性交渉による懐胎(妊娠26週での出生)で子が生存する可能性は極めて低かった。上告人は出生後、速やかに他男の養子に出され、丙ら夫婦とは没交渉であった。丙の死後、丙の養子である被上告人が、上告人に対し親子関係不存在確認の訴えを提起した。
あてはめ
事実関係によれば、夫丙が戦地から帰還する前に妻丁が上告人を懐胎したことは明らかであり、丁が丙の子を懐胎することは不可能であったといえる。したがって、上告人は実質的に民法772条の推定を受けない。また、上告人は出生直後から他男の養子となり、丙とは長年没交渉であった一方、被上告人は丙の養子として同居し、丙も被上告人を唯一の跡継ぎと考えていた形跡がある。このような実態に照らせば、被上告人が相続上の利害関係から訴えを提起することは権利の濫用にあたる特段の事情があるとは認められない。
結論
上告人は民法772条の推定を受けない嫡出子であり、被上告人による親子関係不存在確認の訴えは適法である。
実務上の射程
嫡出推定の及ばない範囲を「外観上の明白性」を基準に確定させた重要判例である。答案上は、まず772条の推定の有無を検討し、推定が及ばない場合には出訴期間等の制限がない「親子関係不存在確認の訴え」が可能であることを示す流れで用いる。ただし、身分関係の安定という観点から、権利の濫用(特段の事情)による制限の可能性にも言及する必要がある。
事件番号: 平成8(オ)380 / 裁判年月日: 平成12年3月14日 / 結論: 破棄自判
夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって、夫が、民法七七二条により嫡出の推定を受ける子に対して、親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されない。
事件番号: 平成17(受)1708 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: 破棄差戻
戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視…
事件番号: 平成17(受)833 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: その他
戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題とな…