夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって、夫が、民法七七二条により嫡出の推定を受ける子に対して、親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されない。
婚姻関係が終了していることと嫡出の推定を受ける子に対する親子関係不存在確認の訴えの許否
民法772条,民法775条,人事訴訟手続法第2章親子関係事件ニ関スル手続
判旨
民法772条により嫡出の推定を受ける子について、婚姻関係の終了や家庭崩壊という事情のみをもって嫡出否認の訴えの出訴期間経過後に親子関係不存在確認の訴えを提起することはできない。
問題の所在(論点)
民法772条の嫡出推定を受ける子について、婚姻関係が終了し家庭が崩壊している場合、出訴期間経過後であっても親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を争うことができるか。
規範
民法772条の嫡出推定を受ける子につき夫が嫡出を否認するには、身分関係の法的安定保持の観点から、原則として嫡出否認の訴え(同法774条以下)によらなければならず、1年の出訴期間(同法777条)の制限を受ける。例外的に、妻が子を懐胎すべき時期に、夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた、あるいは遠隔地に居住していた等、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかである場合(「推定の及ばない嫡出子」)に限り、親子関係不存在確認の訴えを提起できる。
重要事実
被上告人(夫)とD(妻)は、平成3年2月に婚姻届出をし、同年9月に上告人(子)が誕生した。上告人は戸籍上、両者の嫡出子として記載された。その後、平成6年6月に被上告人とDは協議離婚したが、被上告人は、平成7年1月にDから「自然的血縁関係がない」旨の電話を受けたことを機に、同年2月に親子関係不存在確認の訴えを提起した。第一審はこれを却下したが、原審は家族共同体の実体の喪失などを理由に訴えを適法と判断したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件の上告人は、婚姻中に懐胎・出産された子であり、民法772条による嫡出の推定を受ける。被上告人とDの婚姻関係が終了し家庭が崩壊しているとしても、子の身分関係の法的安定を保持する必要がなくなるわけではない。また、懐胎時期に夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの「推定の及ばない」事情も認められない。したがって、出訴期間経過後に本案の訴えをもって父子関係を争うことは許されない。
結論
本件訴えは不適法であり、却下されるべきである。
実務上の射程
嫡出推定の制度趣旨である「子の身分関係の早期安定」を重視し、外観説(性的関係の欠如)による例外を厳格に維持した判例である。答案上は、血縁関係がないことが科学的に証明(DNA鑑定等)されていたとしても、性的関係の機会が認められる限り、本判例の論理により訴えは否定される方向に働く点に注意が必要である。
事件番号: 平成7(オ)2178 / 裁判年月日: 平成10年8月31日 / 結論: 棄却
一 甲は、丙男と丁女との婚姻成立の日から二〇〇日以後に出生した子であるが、丁女が甲を懐胎した時期には丙男は出征中であって丁女が丙男の子を懐胎することが不可能であったことは明らかであるから、実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子であり、また、甲の出生から四十数年を経過して丙男が死亡した後にその養子である乙が丙男と甲…
事件番号: 平成26(オ)226 / 裁判年月日: 平成26年7月17日 / 結論: 棄却
嫡出否認の訴えについて出訴期間を定めた民法777条の規定は,憲法13条,14条1項に違反しない。
事件番号: 平成24(受)1402 / 裁判年月日: 平成26年7月17日 / 結論: 破棄自判
夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)
事件番号: 平成25(受)233 / 裁判年月日: 平成26年7月17日 / 結論: 破棄自判
夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が現時点において妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても,親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)