夫婦が子の出生する九箇月余り前に別居し、夫婦間にはその以前から性交渉がなかったが、夫は、別居開始から子の出生までの間に、妻と性交渉の機会を有したほか、妻となお婚姻関係にあることに基づいて婚姻費用の分担金や出産費用の支払に応ずる調停を成立させたなど判示の事実関係の下においては、嫡出否認の訴えによらずに夫が提起した親子関係不存在確認の訴えは、不適法である。
夫婦が別居を開始してから九箇月余り後に出生した子を被告として嫡出否認の訴えによらずに夫が提起した親子関係不存在確認の訴えが不適法とされた事例
民法722条,民法775条,人事訴訟手続法第2章 親子関係事件ニ関スル手続
判旨
民法772条の嫡出推定を受ける子について、親子関係不存在確認の訴えを提起できるのは、夫と妻が別居して性交渉の機会がないなど、嫡出推定が及ばない「推定の及ばない嫡出子」に当たる場合に限られる。
問題の所在(論点)
民法772条により嫡出推定を受ける子に対し、嫡出否認の訴えの除斥期間(同法777条)経過後に、親子関係不存在確認の訴え(人事訴訟法2条2号)を提起することが許されるか。
規範
民法772条の嫡出推定を受ける子との間に親子関係がないことを主張するには、原則として嫡出否認の訴え(同法774条)によらなければならず、親子関係不存在確認の訴えは認められない。ただし、夫が受刑中であったり遠隔地に居住していたりして、妻が夫の子を懐胎し得ないことが外観上明白な場合(いわゆる推定の及ばない嫡出子)には、例外的に親子関係不存在確認の訴えを提起できる。
重要事実
上告人と妻Dは婚姻後、不和により昭和63年10月に別居したが、別居直後の11月22日に一度性交渉があった。Dは平成元年7月に被上告人を出産し、上告人は同年11月に嫡出否認の調停を申し立てたが不成立となった。上告人は嫡出否認の訴えを提起したが後に取下げ、除斥期間経過後に親子関係不存在確認の訴えを提起した。別居中、上告人は婚姻費用や出産費用の支払に合意する調停を成立させていた。
あてはめ
被上告人は婚姻成立から200日経過後に出生しており、民法772条の推定を受ける。上告人と妻Dは被上告人の出生約9か月前に別居したが、別居後に性交渉の機会を有していた。また、婚姻費用の分担や出産費用の支払といった婚姻関係に基づく義務を履行する調停も成立させている。これらの事実からすれば、上告人と妻の間に婚姻の実態が存しないことが明らかであったとはいえず、被上告人が実質的に「推定の及ばない嫡出子」に当たるとはいえない。
結論
本件訴えは、嫡出否認の訴えによらなければならない事項を親子関係不存在確認の訴えで求めるものであり、不適法として却下される。
実務上の射程
嫡出推定の排除が認められるための「外観上明白な欠如」のハードルを厳格に維持した判例である。答案上は、性交渉の可能性が1回でもある場合には「推定の及ばない」との認定が困難であることを示す事情として活用すべきである。
事件番号: 平成8(オ)380 / 裁判年月日: 平成12年3月14日 / 結論: 破棄自判
夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって、夫が、民法七七二条により嫡出の推定を受ける子に対して、親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されない。
事件番号: 平成25(受)233 / 裁判年月日: 平成26年7月17日 / 結論: 破棄自判
夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が現時点において妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても,親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)
事件番号: 平成26(オ)226 / 裁判年月日: 平成26年7月17日 / 結論: 棄却
嫡出否認の訴えについて出訴期間を定めた民法777条の規定は,憲法13条,14条1項に違反しない。