戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視し得ない精神的苦痛及び経済的負担を受ける可能性が高いこと,XがYに対して実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,上記調停の申立てを取り下げて約10年が経過した後であり,Xが本件訴訟を提起するに至ったことについて実親子関係を否定しなければならないような合理的な事情があるとはうかがわれないことなど判示の事情の下では,上記の事情を十分検討することなく,XがYとの間の上記実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
民法1条3項,民法772条,人事訴訟法2条2号
判旨
実親子関係不存在確認請求が、諸般の事情(親子同様の生活実体の期間、相手方の受ける不利益、請求の動機・目的等)を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらす場合には、権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
虚偽の出生届により長期間実親子としての実体があった場合において、戸籍上の親からの実親子関係不存在確認請求が権利の濫用として排斥されるか。
規範
実親子関係不存在確認請求は、真実の身分関係を確定し戸籍の正確性を確保する趣旨から原則として認められる。もっとも、真実と異なる届出により戸籍上の嫡出子とされた者が、長期間実の親子と同様の生活を送り、社会秩序が形成された場合、不存在の確定は相手方に多大な精神的苦痛や経済的不利益を強い、社会的秩序を破壊する。また、自ら虚偽の届出を行い、又は容認した者が、極めて長期間経過後にこれを否定することは当事者間の公平に反する。したがって、①親子同様の生活実体の期間、②確定により相手方等が受ける精神的・経済的不利益、③請求に至る経緯・動機・目的、④請求を認めない場合に請求者以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を総合考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすときは、権利の濫用(民法1条3項)に当たる。
事件番号: 平成17(受)833 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: その他
戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題とな…
重要事実
明治41年生まれの被上告人は、昭和12年にAと婚姻し、昭和18年にAが他人の子である上告人を実子として虚偽の出生届を出した。上告人はそれから約51年間にわたりA夫妻の下で実子として養育され、実の親子と同様の生活実体を形成してきた。Aの死後、上告人は遺産の約3分の1を相続した。被上告人は平成6年に一度不存在確認調停を申し立てたが取り下げ、さらに10年が経過した平成16年に再度調停・本訴を提起した。
あてはめ
まず、上告人と被上告人は約51年という極めて長期間にわたり親子同様の生活実体があり、被上告人も長年これを否定してこなかった。次に、不存在が確定すれば上告人は多大な精神的苦痛を受けることが予想され、かつ被上告人の相続権を失うという軽視し得ない経済的不利益を受ける可能性が高い。さらに、被上告人が一度取り下げた調停を10年後に再提起した合理的理由はうかがわれず、請求の動機・目的も正当なものか不明である。これら生活実体の長さ、上告人の不利益、請求の経緯を重視すれば、本件請求は実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえる。
結論
被上告人の請求が権利の濫用に当たらないとした原審の判断には法令違反がある。権利の濫用の成否についてさらに審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
虚偽の出生届による「藁の上からの養子」事案において、民法702条等の類推適用による「追認」が認められない場合でも、信義則・権利の濫用により実質的に身分関係を維持する枠組みを提示した。
事件番号: 平成18(受)2056 / 裁判年月日: 平成20年3月18日 / 結論: 破棄差戻
大韓民国の国籍を有するAの嫡出子として同国の戸籍に記載されているYがAの実子ではない場合において,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,これらの事情を十分検討することなく,Aの子であるXらがAとYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,同国の民法の解釈適用を誤った違…