大韓民国の国籍を有するAの嫡出子として同国の戸籍に記載されているYがAの実子ではない場合において,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,これらの事情を十分検討することなく,Aの子であるXらがAとYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,同国の民法の解釈適用を誤った違法がある。 (1) AとYとの間には30年以上にわたり実親子と同様の生活の実体があり,かつ,Xらは,Aの死亡の約10年後まではYがAの実子であることを否定したことがなく,Yとの間でAの遺産分割協議を成立させた。 (2) 判決をもってAとYとの間の実親子関係の不存在が確定されると,Yは軽視し得ない精神的苦痛及び経済的不利益を受ける可能性が高い。 (3) AはYとの間で実親子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,Aが死亡した現時点ではYがAとの間で養子縁組をすることも不可能である。 (4) Xらは,Yが取得したAの遺産の返還を求める訴訟を提起しており,前記実親子関係を否定するに至った動機,目的は,経済的なものであることがうかがわれる。
大韓民国の国籍を有するAとその嫡出子として同国の戸籍に記載されているYとの間の実親子関係についてAの子であるXらが不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に,同国の民法の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
大韓民国民法2条2項,大韓民国民法865条1項,民法1条3項,民法772条,人事訴訟法2条2号
判旨
実親子関係不存在確認請求において、長期間の実親子同様の生活実体や当事者の死後という事情がある場合、請求の動機や相手方の受ける不利益等の諸般の事情を総合考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすときは、権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
真実の実親子関係が存在しない場合であっても、長期間の生活実体がある等の事情の下でなされる実親子関係不存在確認請求が、権利の濫用として否定されるか。
規範
戸籍の記載の正確性を確保する要請は、身分法秩序の安定のために一定の制限を受ける。第三者が実親子関係不存在確認を求める場合、①実の親子と同様の生活実体があった期間の長さ、②判決確定により相手方が受ける精神的苦痛・経済的不利益、③事後的な養子縁組届出による身分取得の可能性の有無、④請求の経緯・動機・目的、⑤不存在が確定されない場合に他者が受ける不利益等を総合考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすときは、権利の濫用(韓国民法2条2項、日本法も同様)に当たり許されない。
事件番号: 平成17(受)1708 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: 破棄差戻
戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視…
重要事実
韓国籍の夫婦A・Bは、福祉施設にいた上告人を引き取り、実子として出生届を出した。上告人は30年以上にわたり実子として養育され、父Aの死亡後、実子として遺産分割協議にも参加した。その後、Aの長女ら(被上告人ら)は、遺産の返還を目的として、上告人と亡Aとの間の実親子関係不存在確認の訴えを提起した。なお、Aは既に死亡しており、上告人が死後養子縁組をすることは不可能であった。
あてはめ
上告人とAは30年以上にわたり実の親子として生活しており、Aも死亡時まで上告人を実子として扱っていた。判決により不存在が確定すれば、上告人は多大な精神的・経済的不利益を被る一方で、Aが死亡しているため改めて養子縁組をすることもできない。被上告人らの動機は専ら遺産返還という経済的目的にある。一方で、不存在が確定されないことにより著しい不利益を受ける他者の存在も認められない。これらの事情に鑑みれば、本件請求は著しく不当な結果をもたらす可能性がある。
結論
被上告人らによる本件請求が権利の濫用に当たらないとした原審の判断には法令違反がある。権利の濫用の該否を更に審理させるため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
本来、客観的事実に基づき戸籍の正確性を期すべき身分関係訴訟においても、個別の事案における具体的事案の妥当性を図るため、信義則・権利濫用の法理が適用されることを示した射程の広い判例。答案では、真実性よりも身分関係の安定・個人の尊厳を優先すべき特段の事情がある際の「身分法上の権利濫用」の判断枠組みとして活用する。
事件番号: 平成17(受)833 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: その他
戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題とな…
事件番号: 平成8(オ)380 / 裁判年月日: 平成12年3月14日 / 結論: 破棄自判
夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって、夫が、民法七七二条により嫡出の推定を受ける子に対して、親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されない。
事件番号: 令和3(受)1463 / 裁判年月日: 令和4年6月24日 / 結論: 破棄自判
Xは、次の⑴、⑵など判示の事情の下においては、亡A及び亡Bと亡Cとの間の各親子関係の不存在確認の訴えにつき法律上の利益を有する。 ⑴ Xは、亡A及び亡Bの孫であり、亡Cの戸籍上の甥である。 ⑵ 亡A及び亡Bの子である亡Dの戸籍上の法定相続人はX及び亡Cの子らであり、亡Dの相続において、上記各親子関係の存否によりXの法定…