戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題となってからであること,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視し得ない精神的苦痛及び経済的不利益を受ける可能性が高いこと,同夫婦はYとの間で嫡出子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,同夫婦は死亡しており,Yが養子縁組をして嫡出子としての身分を取得することは不可能であること,Xが実親子関係を否定するに至った動機が合理的なものとはいえないことなど判示の事情の下では,上記の事情を十分検討することなく,Xが同夫婦とYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
戸籍上の父母とその嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について父母の子が不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
民法1条3項,民法772条,人事訴訟法2条2号
判旨
認知請求権は、親子という身分関係の形成を目的とする一身専属的権利であり、特段の事情がない限り、権利を行使しない旨の合意があってもこれを放棄できず、行使自体が権利濫用となることもない。
問題の所在(論点)
認知請求権の行使を、信義則違反または権利の濫用として排斥することができるか。特に、過去の合意や事実上の身分関係の放置が「特段の事情」に該当するかが問題となる。
規範
認知請求権は、子自身の基本的人権に密接に関わる身分法上の権利であり、公序良俗の観点から放棄が許されない一身専属的権利である。したがって、認知請求権の行使が信義則に反し、または権利の濫用に当たるとして否定されるのは、身分秩序の安定や当事者間の公平を著しく害する「特段の事情」がある場合に限られる。
事件番号: 平成17(受)1708 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: 破棄差戻
戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視…
重要事実
AはBとCの婚姻外の子として出生したが、Bの妻であるDとの長男として虚偽の出生届が出されていた。その後、Bが死亡し、その遺産についてBの嫡出子らとの間で分割協議が行われた際、Aは自らがBの子であることを否定せず、遺産を取得することで事実上の解決を図った。しかし、後日、AはBとの親子関係を確定させるため、Bの死後3年以内に検察官を被告として認知の訴えを提起した。これに対し、被告側は、長年認知を求めず遺産分割にも応じていたことから、本訴提起は信義則に反する権利の濫用であると主張した。
あてはめ
本件において、Aが長年自らの出自を知りながら認知を求めず、遺産分割等において嫡出子として振る舞ってきた事実は認められる。しかし、認知は真実の親子関係を公証し、子の身分法的利益を保護するためのものであり、単なる経済的利益や事実上の合意によって左右されるべきではない。Aが従前の態度と矛盾する請求を行ったとしても、直ちに身分秩序を混乱させるような反社会性は認められず、権利の行使を封殺すべき「特段の事情」があるとはいえない。
結論
認知請求権の行使は、原則として権利の濫用には当たらない。本件においても、従前の経緯のみをもって請求を拒むことはできず、認知請求は認められるべきである。
実務上の射程
認知請求権の放棄不可の原則を再確認した判例である。裁判実務上、相続開始後の認知請求(死後認知)において「相続分目当て」との批判がなされる場面でも、本判例を根拠に、動機や過去の経緯を問わず認知を認めるべきとの議論を展開することになる。
事件番号: 平成18(受)2056 / 裁判年月日: 平成20年3月18日 / 結論: 破棄差戻
大韓民国の国籍を有するAの嫡出子として同国の戸籍に記載されているYがAの実子ではない場合において,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,これらの事情を十分検討することなく,Aの子であるXらがAとYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,同国の民法の解釈適用を誤った違…
事件番号: 平成26(オ)226 / 裁判年月日: 平成26年7月17日 / 結論: 棄却
嫡出否認の訴えについて出訴期間を定めた民法777条の規定は,憲法13条,14条1項に違反しない。