戸籍上甲乙夫婦の嫡出子として記載されている丙が真実甲乙夫婦の実子でない場合において、甲乙夫婦と丙との間に長年にわたり実親子と同様の生活の実体があり、両者ともその共同生活の解消を望んでおらず、甲乙夫婦の養子である丁も、甲乙夫婦と丙との間の親子関係の不存在を熟知しておりながら、甲の生前にはその確認を求める訴訟を提起しなかったなど判示の事情があったとしても、丁が甲乙夫婦と丙との間の親子関係不存在確認請求をすることは、権利の濫用に当たり許されないとはいえない。 (補足意見がある。)
戸籍上の父母とその嫡出子として記載されている者との間の親子関係について父母の養子が不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとされた事例
民法1条,民法739条,民法799条,人事訴訟手続法第2章親子関係事件ニ関スル手続
判旨
他人の子を嫡出子として届け出た場合、長年の実親子同様の生活実体があっても、その出生届を養子縁組届とみなすことはできない。また、身分法秩序の画一的確定という趣旨に鑑み、親子関係不存在確認の請求が権利の濫用に当たるか否かは慎重に判断されるべきである。
問題の所在(論点)
1. 実親子同様の生活実体がある場合、虚偽の嫡出子出生届を養子縁組届とみなせるか。 2. 長年放置されていた虚偽の親子関係について、相続争いを機に不存在確認を求めることが権利の濫用に当たるか。
規範
1. 養子縁組は法定の届出により効力を生じるため(民法799条・739条)、他人の子を嫡出子として出生届を出しても、これをもって養子縁組届とみなすことはできない。 2. 親子関係不存在確認請求(人事訴訟法2条2号)が権利の濫用(民法1条3項)となるかは、身分法秩序の根幹を成す関係の画一的確定や戸籍の正確性確保という本訴訟の公共的性質に照らし、事案の諸事情を総合して判断される。
重要事実
事件番号: 平成17(受)1708 / 裁判年月日: 平成18年7月7日 / 結論: 破棄差戻
戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視…
亡Dとその妻A1は、他人の子であるA2を自分たちの実子として虚偽の出生届を出した。A2は40年以上にわたりD夫婦の実子として育てられ、婚姻後も同居を続けるなど実親子同様の生活実体があった。Dの死後、Dの養子である被上告人とA2らの間で経営権や遺産分割を巡る争いが生じた。被上告人は、A2が実子でないことを20年以上前から知っていたが、Dの死後に初めて親子関係不存在確認の訴えを提起した。
あてはめ
1. 判例の趣旨に鑑み、生活実体の有無にかかわらず出生届を縁組届に転換することは認められない。 2. 本件訴訟は、身分関係の対世的確定や戸籍の正確性確保という重要な機能を担う。A2はDの死後も存命のA1と改めて養子縁組を行うことで嫡出親子関係を創設する方策が残されている。被上告人が長期にわたり事実を知りながら提訴しなかった点や、動機が相続争いにある点を考慮しても、直ちに身分秩序の是正を求める請求が権利の濫用として封じられるべきとはいえない。
結論
出生届を養子縁組届とみなすことはできず、被上告人の請求は権利の濫用にも当たらないため、親子関係の不存在は認められる。
実務上の射程
「藁の上からの養子」の事案において、出生届の転換を否定する確立した判例法理を示す。権利の濫用については、本判決は否定したが、補足意見では「戸籍上の父母が共に死亡し養子縁組による救済が不可能な場合」などには権利濫用となる余地を示唆しており、答案上は救済の可否(補充性)に留意して論じる必要がある。
事件番号: 昭和55(オ)661 / 裁判年月日: 昭和56年6月16日 / 結論: 棄却
嫡出親子関係不存在確認の訴においては、父子関係と母子関係との各不存在を合一に確定する必要はない。
事件番号: 平成18(受)2056 / 裁判年月日: 平成20年3月18日 / 結論: 破棄差戻
大韓民国の国籍を有するAの嫡出子として同国の戸籍に記載されているYがAの実子ではない場合において,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,これらの事情を十分検討することなく,Aの子であるXらがAとYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,同国の民法の解釈適用を誤った違…