市が、獣医師に飼犬又は飼猫の不妊手術を受けさせた市民である飼主にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり、その獣医師を獣医師会支部に所属する者に限定した措置は、その趣旨が、犬猫の不妊手術を奨励して野犬や野良猫の発生を防止することにあり、不妊手術を受けさせた飼主や不妊手術をする獣医師を保護するためではないこと、獣医師会は任意加入の公益社団法人であり、それに加入してその各種制約の下に営業するか、加入しないで営業するかは、基本的には各獣医師個人の自由意思にゆだねられていることなど判示の事実関係の下では、直ちに同支部に所属しない獣医師の営業上の利益を侵害するものとして国家賠償法上違法になるとはいえない。
市が獣医師に飼犬又は飼猫の不妊手術を受けさせた市民にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり右の獣医師を獣医師会支部に所属する者に限定した措置が国家賠償法上違法であるとはいえないとされた事例
国家賠償法1条1項
判旨
行政庁による補助金交付対象の限定が、対象外の者の営業上の利益を侵害するとしても、その不利益が競業関係による波及的効果にすぎず、補助金の趣旨が当該事業者の保護にない場合には、直ちに国家賠償法上の違法とはならない。
問題の所在(論点)
特定の団体に所属する獣医師に限定して補助金に関連する事務を行わせる行政措置が、非所属獣医師の営業上の利益を侵害するものとして、国家賠償法1条1項の違法性を構成するか。
規範
行政上の措置が特定の者の営業上の利益を侵害し、国家賠償法1条1項の「違法」とされるか否かは、当該措置の目的(趣旨)、被害の直接性、および侵害される利益の性質を総合的に考慮して判断する。特に、補助金交付の趣旨が特定の事業者の保護にあるか、あるいは生じた不利益が直接的な権利侵害ではなく競業関係による波及的効果にすぎないかという点が重要な判断要素となる。
重要事実
町田市(被上告人)は、野犬等の発生防止を目的とする要綱に基づき、犬猫の不妊手術料の補助金を交付していた。しかし、その交付対象を「特定の獣医師会支部に所属する獣医師」による手術を受けた飼主に限定した。同支部に所属しない獣医師(上告人ら)は、この措置が不当な差別であり営業の自由を侵害するとして、国家賠償請求を提起した。
あてはめ
まず、本件補助金の趣旨は野犬等の発生防止(公益)にあり、獣医師の保護を目的とするものではない。次に、非所属獣医師に生じる営業上の不利益は、補助金を受けられる飼主が所属獣医師を選択することに伴う「競業関係による波及的な効果」にすぎず、直接的な権利侵害とはいえない。さらに、獣医師会は任意加入の団体であり、加入の有無は個人の自由意思に委ねられている。本件措置は行政効率の点で適切さを欠く面があるものの、これらの諸点を考慮すれば、上告人らの営業上の利益を不当に侵害するほどの違法性があるとは認められない。
結論
本件要綱によって非所属獣医師を補助対象から除外したことは、直ちに国家賠償法上違法になるとは認められず、上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
行政の給付的措置における「反射的利益」の侵害が問題となる場面で活用できる。行政処分ではない事実行為や要綱に基づく措置の違法性判断において、目的の正当性や不利益の性質(直接的か波及的か)を検討する際の枠組みとして機能する。
事件番号: 平成4(オ)255 / 裁判年月日: 平成7年12月5日 / 結論: 棄却
再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法七三三条を改廃しない国会ないし国会議員の行為は、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではない。