一 宅地建物取引業者に対する知事の免許の付与ないし更新が宅地建物取引業法所定の免許基準に適合しない場合であっても、知事の右行為は、右業者の不正な行為により損害を被った取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法一条一項にいう違法な行為に当たるものではない。 二 知事が宅地建物取引業者に対し宅地建物取引業法六五条二項による業務停止処分ないし同法六六条九号による免許取消処分をしなかった場合であっても、知事の右監督処分権限の不行使は、具体的事情の下において、右権限が付与された趣旨・目的に照らして著しく不合理と認められるときでない限り、右業者の不正な行為により損害を被った取引関係者に対する関係において国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けない。 (二につき反対意見がある。)
一 宅地建物取引業法所定の免許基準に適合しない免許の付与ないし更新をした知事の行為と国家賠償法一条一項の違法性 二 宅地建物取引業者に対する知事の監督処分権限の不行使と国家賠償法一条一項の違法性
国家賠償法1条1項,宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの)3条1項,宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの)3条2項,宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの)5条1項,宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの)65条2項,宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの)66条9号
判旨
宅地建物取引業法に基づく知事等の監督処分権限の不行使は、その趣旨・目的に照らし、裁量権の行使が著しく不合理と認められない限り、個々の取引関係者との関係で国家賠償法1条1項の違法とは評価されない。
問題の所在(論点)
宅地建物取引業法上の免許付与・更新、および監督処分権限の不行使が、国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるか。
規範
宅地建物取引業法が免許制度や監督処分権限を設けた趣旨は、直接的には取引の公正確保と円滑な流通にあり、個々の取引関係者の具体的損害の防止・救済を直接の目的とするものではない。また、業務停止や免許取消等の処分は、業者の営業継続や既存の取引関係者の利害に多大な影響を及ぼす不利益処分であり、その発動や時期の決定は知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられている。したがって、権限の不行使が国賠法1条1項上違法となるのは、監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が「著しく不合理」と認められるときに限られる。
重要事実
宅建業者Dは、実質的経営者Eが多額の負債を抱え、他人所有物件を自社物件として売却する等の不正な営業を行っていた。京都府知事はDに対し免許を付与・更新したが、当時苦情申出は1件のみで担当職員が処理していた。更新後、苦情が相次いだため立入検査や新規契約禁止の指示を行ったが、既存の被害者から「融資による債務返済を待つため処分を猶予してほしい」との要望を受け、行政指導を継続。その後、更なる苦情により聴聞手続を開始したが、その過程で上告人がDに中間金を支払い、後に損害を被った。上告人は、知事の免許付与・更新および監督処分権限の不行使が違法であると主張した。
あてはめ
まず、免許付与・更新時において苦情は1件のみであり、担当職員が適切に処理していたことから、免許基準に適合しない点があったとしても直ちに違法とはいえない。次に、監督処分の不行使について、担当職員は立入検査や指導を行い、被害者側の「処分猶予」の要望を汲んで融資の可能性を見守るなど、被害者救済の可能性を模索しつつ行政指導を継続していた。このような事情の下では、聴聞手続を経て免許を取り消すまでの過程において、上告人が中間金を支払った時点までに処分を行わなかったことが、監督処分権限の趣旨・目的に照らして「著しく不合理」であるとは認められない。
結論
本件における京都府知事の権限不行使等は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない。
実務上の射程
規制権限の不行使が国賠法上違法となる基準として、「著しく不合理」という裁量濫用的な枠組みを示したもの。宅建業法のみならず、行政庁に広範な専門的裁量が認められる規制行政一般において、第三者に対する国賠責任を限定的に解する際のリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和60(オ)122 / 裁判年月日: 昭和63年1月26日 / 結論: 破棄自判
訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる。