従来、時間外割増賃金及び深夜割増賃金を含むとの認識の下に水揚高に一定率を乗じた歩合による賃金を支払っていた使用者が、労働基準監督署から割増賃金部分を明確にするよう指導を受けたため、水揚高に従前の率を若干下回る率を乗じた金額を基礎給としこれに時間外割増賃金及び深夜割増賃金を加算して支払うことを内容とする賃金計算方法を採用することを企業内に併存する甲乙二つの労働組合に提案したのに対し、甲組合はこれを承認したが、乙組合はこれを拒否し、水揚高に従来どおりの率を乗じた金額を基礎給としこれに時間外割増賃金及び深夜割増賃金を加算して支払うことを要求し続けていた場合において、使用者が、乙組合との団体交渉の結果、同組合との間で労働基準法三六条所定の協定を締結することを拒否し、乙組合員の時間外労働を禁止している行為は、使用者が、まず甲組合とのみ右提案及び右協定の締結について協議を行って合意を成立させ、乙組合とは何ら協議を行うことなく乙組合員の時間外労働を禁止し、その五日後に初めて団体交渉を行ったもので、右団体交渉においては、甲組合と合意に達した労働条件を受諾するように求め、これをもって譲歩の限度とする強い態度を示したなど判示の事情があっても、使用者の右団体交渉における主張の主な意図が乙組合の団結権の否認ないし弱体化にあり団体交渉が形式的に行われたにすぎないものと認められる特段の事情があるとはいえず、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為に当たらない。 (反対意見がある。)
併存する企業内組合の一つが使用者の提案する賃金計算方法の変更を承認しないことを理由に使用者が右組合との間で労働基準法三六条所定の協定を締結することを拒否しその組合員の時間外労働を禁止している行為が労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為に当たらないとされた事例
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)36条,労働基準法(平成5年法律第79号による改正前のもの)37条1項,労働組合法7条1号,労働組合法7条3号
判旨
複数組合が併存する場合、使用者が組合間の交渉結果の差に伴い労働条件に差異を設けても、団結権否認等の不当な意図がない限り、原則として不当労働行為には当たらない。一方、組合員の行為を捉えてなされた一連の懲戒処分が、組合嫌悪の意図に基づく差別的なものである場合は、不利益取扱い及び支配介入に該当する。
問題の所在(論点)
1. 36協定の締結を拒否し、申立組合員にのみ時間外労働を禁止した行為が、不当労働行為(労組法7条1号・3号)に該当するか。 2. 申立組合員に対する一連の懲戒処分(第三次懲戒処分)が、不当労働行為に該当するか。
規範
事件番号: 昭和57(行ツ)50 / 裁判年月日: 昭和62年5月8日 / 結論: 棄却
使用者がその企業内に併存する甲乙二つの労働組合のうち多数派の甲組合に対して組合事務所等を貸与しながら、少数派の乙組合に対しては専従者の職場復帰問題の解決が先決であることなどを理由にその貸与を拒否している場合において、甲組合との間では貸与に際し特段の条件を付したり前提となる取引を行つたりしておらず、右職場復帰問題は組合事…
1. 併存組合間での労働条件の差異:各組合は独自の交渉権を有するため、交渉結果の差により取扱いに差異が生じても、使用者が団結権の否認・弱体化を主な意図とする主張に終始し、交渉が形式的であったと認められる特段の事情がない限り、不当労働行為(労組法7条1号・3号)を構成しない。 2. 懲戒処分の不当労働行為性:処分が組合活動を理由とする不利益取扱い等に当たるかは、処分の経緯、他組合員との均衡、使用者の反組合的意図の有無を総合考慮して判断する。
重要事実
タクシー会社Xには、少数派の申立組合と多数派の社員会が併存していた。Xは、労基署の是正勧告を受けて賃金体系を改定。多数派組合とは新賃金体系と時間外労働を認める36協定を締結したが、申立組合は賃金水準の維持を求め合意に至らなかった。Xは申立組合員のみ時間外労働を禁止し、また、勤務シフト不遵守を理由に申立組合員にのみ累次の懲戒処分(第三次懲戒処分等)を行った。他方、多数派組合員にも同様の不遵守があったが、当初は不問に付されていた。
あてはめ
1. 時間外労働禁止について:Xは深夜割増賃金の二重払いを避けるという一応合理的な理由に基づき、多数派との合意条件を譲歩の限度として交渉しており、申立組合との交渉も時期的に遅すぎず、不誠実とはいえない。団結権否認の主たる意図や形式的な交渉という特段の事情は認められない。 2. 懲戒処分について:Xは組合結成直後から無期限乗務停止等の厳しい対応をしており、かつ多数派組合員の違反を調査せず申立組合員のみを対象に処分を繰り返している。これら一連の経緯から、本件懲戒処分は組合嫌悪の意図に基づく差別的なものと評価される。
結論
1. 時間外労働の禁止行為は、不当労働行為には当たらない。 2. 第三次懲戒処分は、不利益取扱い及び支配介入として不当労働行為に当たる。
実務上の射程
併存組合が存在する場面での「中立保持義務」の限界を示す。使用者が合理的理由に基づき交渉条件を固執した結果の差異は許容されるが、懲戒権の行使等において組合間の扱いに著しい不均衡があり、組合嫌悪の意図が推認される場合には、依然として不当労働行為が成立する。答案上は、不当労働行為の成否を論ずる際の「正当な理由」や「不当な意図」のあてはめで活用する。
事件番号: 昭和61(行ツ)56 / 裁判年月日: 平成元年1月19日 / 結論: 棄却
使用者がその企業内に併存する甲乙二つの労働組合との間の組合掲示板貸与に関する交渉に当たり、両組合に対して同一の貸与条件を提示し、これを受け入れた甲組合に対しては組合掲示板を貸与し、これを拒否した乙組合に対してはその貸与を拒否した場合において、乙組合に対して組合掲示板の貸与を拒否した使用者の行為は、右貸与条件の内容が、掲…
事件番号: 昭和55(行ツ)40 / 裁判年月日: 昭和61年1月24日 / 結論: 棄却
相前後して結成された甲乙二つの労働組合が併存する会社において、各組合結成直前の年度の賞与においては後に甲乙各組合員となつた者らの平均人事考課率にほとんど差異がなかつたのに、各組合結成直後の年度の賞与においては甲組合員の人事考課率が乙組合員らのそれと比較して低く査定されその間に全体として顕著な差異が生じており、また、甲組…
事件番号: 昭和53(行ツ)40 / 裁判年月日: 昭和60年4月23日 / 結論: 棄却
使用者がその企業内に併存する甲乙二つの労働組合のうち少数派の乙組合員に対して一切の残業を命じていない場合において、それが乙組合との団体交渉において製造部門につき既に甲組合との合意の下に実施している昼夜二交替制勤務及び計画残業からなる勤務体制に乙組合も服することが残業の条件であるとの使用者の主張を乙組合が拒否したため残業…