敷金返還請求権を目的として質権が設定され、第三債務者がこれを承諾した場合において、第三債務者としては敷金から控除される金額の割合を定めた特約の存在について異議をとどめて承諾をするつもりであったのに、その使者がこれと異なった表示をしたため、錯誤により異議をとどめない承諾がされる結果となったものであり、右特約が返還の対象となる敷金の額と密接なかかわりを有する約定であったなど判示の事実関係の下においては、第三債務者の右の錯誤は、承諾をするに至った動機における錯誤ではなく、承諾の内容自体に関する錯誤であって、要素の錯誤に当たるというべきである。
敷金返還請求権を目的とする質権設定についての第三債務者の異議をとどめない承諾に要素の錯誤があるとされた事例
民法95条,民法364条,民法467条,民法468条
判旨
指名債権への質権設定に対する第三債務者の承諾は観念の通知であるが、意思表示の錯誤の規定が類推適用される。敷金返還債権の控除特約の有無に関する誤認は、単なる動機の錯誤ではなく通知の内容自体の錯誤であり、要素の錯誤に当たると解される。
問題の所在(論点)
質権設定に対する第三債務者の承諾に錯誤がある場合、意思表示の錯誤の規定が類推適用されるか。また、債権の控除特約に関する誤認は「要素の錯誤」に当たるか。
規範
1. 質権設定に対する第三債務者の承諾は、観念の通知であるが、これについても意思表示の錯誤に関する規定が類推適用される。 2. 錯誤が「要素の錯誤」(民法95条。現行法の「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」に相当)に当たるかは、その錯誤が通知の内容自体に関するものか、及びその錯誤がなければ通知をしなかったといえるかという観点から判断する。
重要事実
賃貸人(上告人)は、賃借人(D)との間で、期間内の中途解約時に敷金を一定割合で控除する旨の特約(本件特約)を締結した。Dは被上告人から融資を受ける際、敷金返還請求権を目的として質権を設定し、上告人はこれを承諾した。その際、上告人は本件特約が付された新契約書に基づいて質権者が把握することを前提に「異議なく承諾」したが、実際には特約の記載がない旧契約書が質権者に交付されていた。その結果、客観的には特約の存在を留保しない承諾をした形となった。
あてはめ
上告人は、質権設定を承諾するに当たり、本件特約が付されていることを前提に異議を留めて承諾する意思であったが、表示上は異議のない承諾となった。本件特約は敷金から控除される金額の割合を定めるものであり、返還対象額と密接に関わる「債権の重要な属性」に関するものである。したがって、この不一致は単なる動機の錯誤ではなく承諾の内容自体に関する錯誤である。また、特約のない多額の敷金返還債権に質権が設定されることを知れば、社会通念上、上告人が承諾しなかったことは容易に推察できるため、重要性も認められる。
結論
上告人の承諾には要素の錯誤があり、民法95条(類推適用)に基づき、上告人は本件特約をもって質権者(被上告人)に対抗することができる(無効または取消しうる)。
実務上の射程
1. 観念の通知に対する95条の類推適用を肯定した点に重要な意義がある。 2. 債権譲渡の承諾についても同様の理が妥当する。 3. 答案上は「動機の錯誤」か「内容の錯誤」かの峻別において、対象債権の性質や属性(特約の有無等)が通知の核心部分といえるか否かを論じる際の指標となる。
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