賃貸借契約締結の際差し入れられた金員が敷金か権利金かを判断するにつき、当該賃貸借契約書の条項を看過したことは、理由齟齬ないし審理不尽である。
原判決に理由齟齬があるとされた事例。
民訴法395条6号
判旨
建物賃貸借契約において授受された金員の性質が敷金か権利金か争われる場合、契約書に敷金に関する条項が存在すれば、それは約定内容を判断する極めて有力な証拠資料となる。契約書の記載を看過して「敷金に関する記載がない」として金員の性質を認定した原審の判断には、理由齟齬または審理不尽の違法がある。
問題の所在(論点)
建物賃貸借契約時に授受された金員の性質(敷金か否か)を認定するにあたり、契約書上に敷金の額の直接的な記載がない一方で敷金に関連する条項が存在する場合、裁判所はどのような証拠評価を行うべきか。
規範
建物賃貸借契約の約定内容(授受された金員の法的性質等)を判断するにあたっては、当該契約の成否および内容を直接証する書面である契約証書が、極めて有力な証拠資料となる。
重要事実
上告人と訴外Dとの間の建物賃貸借契約に際し、18万円の金員が授受された。原審は、この金員を「権利金」であり「敷金」ではないと認定する際、その理由の一つとして、契約証書(甲第1号証)に敷金の点に関して何ら記載がないことを挙げた。しかし、当該契約証書には、失火時の敷金返還請求権の放棄や、賃料延滞時の敷金有無に拘わらない解除権に関する条項(第1項、第6項)など、敷金の存在を前提とした文言が明記されていた。
あてはめ
本件契約証書には、敷金の具体的金額こそ記載されていないものの、第1項で「敷金の有無に不拘……当然本契約は解除せられたるもの」とし、第6項で「預託したる敷金は其返還を請求致間敷候事」との記載がある。これらの記載は、契約当事者間に敷金の授受または預託の合意があったことを強く推認させるものである。原審が、これらの明文規定を看過して「敷金の点に関しなんらの記載がない」と断じたことは、証拠の客観的内容に反する認定であり、事実誤認を導く審理不尽または理由齟齬の違法があるといえる。
結論
原判決には理由齟齬ないし審理不尽の違法が存するため、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻す。
実務上の射程
契約書の文言と異なる事実認定を行う場合の手続的違法を指摘する文脈で使用する。特に、敷金・保証金等の名目をめぐる争いにおいて、契約書の条項が金額の記載を欠く場合であっても、他の関連条項からその性質を合理的に解釈すべきことを強調する際の根拠となる。
事件番号: 平成16(受)1573 / 裁判年月日: 平成17年12月16日 / 結論: 破棄差戻
1 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費用を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されてい…