甲が禁治産者乙の後見人に就職する前に乙のために無権限で訴えを提起した上弁護士に対する訴訟委任をし、これに基づいて判決がされた場合には、甲が乙の姉であって後見人に就職する前から事実上後見人の立場で乙の面倒を見てきたものであり、このような甲の態度について家族の他の者が異議を差し挟んでおらず、甲と乙の利害が相反する状況もなかったなど原判示の事情があったとしても、後見人に就職した甲が自己の無権代理行為の効力を再審の訴えにおいて否定することは、信義則に反して許されないとはいえない。
禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起及び弁護士に対する訴訟委任の行為の効力を再審の訴えにおいて否定することが信義則に反して許されないとはいえないとされた事例
民訴法第1編第4章第1節口頭弁論,民訴法428条1項3号,民法1条2項,民法859条
判旨
無権代理人が本人の後見人に就職した場合でも、当然にその訴訟行為が有効となるわけではなく、信義則を理由に無効主張を拒むこともできない。また、終了した審級の訴訟行為を追認する場合、一部の行為のみを選択して追認することは許されない。
問題の所在(論点)
1. 無権代理人が本人の法定代理人(後見人)に就職した場合、信義則によって無権代理の訴訟行為が当然に有効となるか。 2. すでに終了した審級における無権代理の訴訟行為について、その一部(訴え提起等)のみを選択的に追認することができるか。
規範
1. 訴訟行為は、公権的に法律関係を確定する裁判の基礎を構成するものである。民事訴訟法が追認を明文で規定する(現行34条2項、旧54条参照)趣旨に照らせば、無権代理人が後見人に就職したからといって、私法上の法理である信義則により当然に有効となると解するのは相当ではない。 2. 後見人は、被後見人の正当な利益を図るべき公的な責務を有しており、前訴の無効を主張することはその責務に合致する。 3. 無権代理人がした訴訟行為の追認は、既に手続が終了した審級については、当該審級における行為を一体として不可分的に行うべきであり、一部の行為のみを追認することは許されない。
重要事実
精神分裂病により意思能力を欠く上告人に対し、その実姉Dが法定代理権なく無権代理人として損害賠償請求訴訟(前訴)を提起した。前訴は時効により棄却判決が下され確定した。その後、Dは上告人の後見人に選任され、前訴には無権代理の再審事由(現行338条1項3号)があるとして再審を請求した。これに対し、被告側は「Dが後見人になった以上、自らが行った前訴の効力を否定することは信義則に反し許されない」と主張。また、上告人(D)側は再審請求にあたり、前訴のうち「訴え提起のみ」を追認し、手続のやり直しを求めた。
あてはめ
1. 訴訟手続の明確性の観点から、追認がない限り無権代理行為は無効である。Dが後見人に就職したことは、被後見人の利益を守るべき公的責務を負ったことを意味し、不利益な前訴判決を排除すべく無効を主張することは後見人としての正当な職務遂行である。したがって、信義則を適用して前訴を有効とみなすことはできない。 2. 上告人は訴え提起のみを追認して審理の継続を求めているが、追認は審級ごとに一体としてなされるべきものである。敗訴判決という結果を回避しつつ、訴え提起の効果のみを維持するという選択的な追認は認められない。したがって、前訴全体が追認されない以上、前訴は不適法な訴えとして却下を免れない。
結論
前訴には無権代理の再審事由が認められるため前訴判決を取り消すが、一部追認は認められないため、前訴の訴え自体を不適法として却下する。
実務上の射程
訴訟代理権の欠缺という重大な瑕疵がある場合、信義則による補完を否定し、民訴法上の追認制度を厳格に運用した射程の長い判例。また、追認の不可分性を明確にしており、一部追認による「いいとこ取り」を封じている点も重要である。
事件番号: 平成6(オ)535 / 裁判年月日: 平成7年2月24日 / 結論: 破棄自判
第一審及び控訴審の訴訟追行並びに上告の堤起が授権を欠く訴訟代理人により行われた場合において、本人が右各訴訟行為のうち上告の提起のみを追認して訴訟代理権の欠缺を理由に控訴審判決の破棄を求めているときは、上告審は、控訴審判決を破棄して第一審判決を取り消した上、訴えを却下すべきである。
事件番号: 昭和54(オ)879 / 裁判年月日: 昭和55年9月26日 / 結論: 棄却
無権代理人がした訴訟行為の追認は、ある審級における手続がすでに終了したのちにおいては、その審級における訴訟行為を一体として不可分的にすべきものであつて、すでに終了した控訴審における訴訟行為のうち控訴提起行為のみを選択して追認することは許されない。
事件番号: 昭和63(オ)924 / 裁判年月日: 平成3年3月22日 / 結論: 棄却
未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲…