禁治産者の後見人が、その就職前に禁治産者の無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かは、(1)契約の締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が契約の締結前に相手方との間でした法律行為の内容と性質(2)契約を追認することによって禁治産者が被る経済的不利益と追認を拒絶することによって相手方が被る経済的不利益、(3)契約の締結から後見人が就職するまでの間に契約の履行等をめぐってされた交渉経緯(4)無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がその就職前に契約の締結に関与した行為の程度、(5)本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実など諸般の事情を勘案し、契約の追認を拒絶することが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的な場合に当たるか否かを判断して、決しなければならない。
禁治産者の後見人がその就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かを判断するにつき考慮すべき要素
民法1条2項,民法113条,民法859条
判旨
意思無能力者の無権代理人により締結された契約について、後に就職した成年後見人が追認を拒絶することは、本人の利益保護義務に鑑み原則として許されるが、取引の安全や相手方の利益を著しく害し、正義の観念に反するような例外的場合には信義則(民法1条2項)により制限される。
問題の所在(論点)
意思無能力者が行った無権代理行為について、後に就職した成年後見人が追認を拒絶することが、信義則(民法1条2項)により制限されるための判断枠組み。
規範
後見人は、本人の利益のために適切な裁量を行使して代理権を行使すべき義務(民法869条、644条)を負うため、無権代理行為の追認拒絶権も原則として認められる。もっとも、当該代理権の行使が取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的な場合には、信義則(1条2項)上許されない。その判断にあたっては、①交渉経緯・契約の性質、②本人と相手方の経済的不利益の比較、③後見人就職までの交渉経緯、④無権代理人と後見人の人的関係・関与度、⑤相手方の善意・悪意等の諸般の事情を総合考慮すべきである。
重要事実
重度の知的障害がある本人A(意思無能力者)の親族Fは、長年Aの事実上の後見人として財産管理を行い、Aを代理してBとの間で建物賃貸借予約を締結し、不履行時の損害賠償額を4000万円と定めた。その後、親族GがAの成年後見人(当時は禁治産者の後見人)に就任。GはFとともに本件予約の成立に関与していたが、就任後に本件予約の追認を拒絶した。Bは、Gによる追認拒絶は信義則に反し、予約は有効であるとして賠償金を請求した。
あてはめ
本件では、(1)Fが長年事実上の後見人として行動し、Gも予約成立に深く関与していた点や、(2)予約上の賠償額4000万円が、本人の得た利益や相手方の損失と比して合理的な均衡を欠いていないか等の検討が必要である。原審は、Gが内容を了知していたことのみを重視して直ちに信義則違反としたが、後見人の本人に対する利益保護義務を軽視しており、上記諸般の事情(特に経済的合理性の均衡)を十分に勘案せずに追認拒絶を無効とした点は、法令の解釈適用を誤っているといえる。
結論
後見人による追認拒絶が信義則に反するかは、本人の利益と相手方の信頼保護を比較衡量する諸般の事情を総合考慮して決すべきであり、単に後見人が予約に関与していた事実のみで拒絶が封じられるわけではない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
無権代理と相続(113条等)の類推適用が問題となる場面ではなく、後見人の善管注意義務と信義則の衝突を解決する枠組みである。答案上は、後見人が本人を「保護」すべき立場にあることを強調し、無権代理人本人が相続した場合(当然有効説)よりも、信義則の適用を厳格に(=追認拒絶を認めやすく)論じる際に活用する。
事件番号: 平成6(オ)535 / 裁判年月日: 平成7年2月24日 / 結論: 破棄自判
第一審及び控訴審の訴訟追行並びに上告の堤起が授権を欠く訴訟代理人により行われた場合において、本人が右各訴訟行為のうち上告の提起のみを追認して訴訟代理権の欠缺を理由に控訴審判決の破棄を求めているときは、上告審は、控訴審判決を破棄して第一審判決を取り消した上、訴えを却下すべきである。
事件番号: 昭和63(オ)924 / 裁判年月日: 平成3年3月22日 / 結論: 棄却
未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲…