未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲も、成人に達した後において、右両名が甲の財産を管理してきたことを事実上承認していたなど判示の事情があるときは、乙及び丙が後見人として代理行為をしたことを理由として甲が右売買契約の効力を否定することは、信義則上許されない。
後見人に就職した二名の者が未成年者を代理して締結した売買契約の効力を否定することが許されないとされた事例
民法1条2項,民法113条,民法843条
判旨
複数人の後見人が共同で行った無権代理行為について、本人が成年に達した後、その管理状況を事実上承認し、長期間無効を主張しなかったなどの事情がある場合、信義則上、追認を拒絶することは許されない。
問題の所在(論点)
後見人が一人に限られていた旧民法下において、複数名の後見人が共同で行った代理行為につき、本人が成年に達した後に信義則に基づき追認拒絶が制限されるか。
規範
民法843条(旧法)は後見人を一人に限定しており、複数名による共同代理は無権代理行為(113条1項)に該当する。しかし、(1)代理人が正当な権限があると信じて財産管理に当たり、(2)行為自体が本人の利益に資するものであって不利益がなく、(3)本人が成年に達した後も事実上その管理を承認し、特段の異議を唱えていなかった場合には、信義則(1条2項)上、本人は当該無権代理行為の追認を拒絶できない。
重要事実
未成年者である本人(上告人)に対し、実父母であるD及びEの両名が後見人として就職した旨の戸籍記載がなされた。D・Eは、本人の所有地について被上告人と売買契約を締結した。この売買代金は、本件土地に設定されていた抵当権の被担保債権の弁済に充てられ、本人に利益相反や不利益はなかった。本人は成年に達した後、土地の仮登記の存在を知り得る状況にありながら長年無効を主張せず、むしろ土地の一部に自ら根抵当権を設定するなど、D・Eによる財産管理を事実上承認していた。その後、本人は複数後見による無権代理を理由に売買の無効を主張した。
事件番号: 昭和43(オ)946 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: 棄却
親権者が第三者から金員を借り受けるにあたり、その未成年の子が連帯債務を負担し、また、同債務を担保するため、その子の不動産につき、代物弁済の予約、停止条件付賃借権の設定をなし、さらに、右代物弁済の予約完結の意思表示により右不動産の所有権が第三者に移転したことを即決和解または私法上の和解契約において確認する行為は、民法八二…
あてはめ
D・Eは本人の実親であり、欠格事由がなければ当然に親権者となる立場であって、本来いずれか一方が後見人に選任されるべき状況にあった。本件売買により土地の抵当権負担が消滅しており、本人の利益が損なわれた事実は認められない。また、本人は成年に達した後も長期間、D・Eによる財産管理を事実上承認しており、訴訟に至るまで本件売買の無効を問題にしていなかった。このような状況下で、形式的な無権代理を理由に契約の効力を否定することは、相手方の信頼を裏切るものであり、信義則に反すると評価される。
結論
本人は、信義則上、無権代理行為の追認を拒絶することは許されず、本件売買契約は有効である。
実務上の射程
無権代理人による行為が、結果として本人に利益をもたらしており、かつ本人が成年に達した後の言動から「追認の拒絶」が矛盾挙動(エストッペル)とみなされる場合に、信義則による修正を認める。司法試験では、無権代理と相続の類推適用が難しい場面などで、個別的事情を拾って信義則で解決する際の有力な指針となる。
事件番号: 昭和36(オ)644 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権消滅後に、元代理人が従前の代理権の範囲を超えた行為をした場合、民法112条(代理権消滅後の表見代理)と110条(権限外の行為の表見代理)の法理を重ねて適用し、相手方がその権限があると信ずべき正当な事由があるときは、本人はその責を負う。 第1 事案の概要:上告人の養父Eは、上告人の承諾を得て土…
事件番号: 昭和43(オ)783 / 裁判年月日: 昭和43年10月8日 / 結論: 棄却
一、抵当権の設定契約が無効のときには、その抵当権に基づく競売により、抵当物件が競落されても、競落人はその所有権を取得することができない。 二、第三者の金銭債務について、親権者がみずから連帯保証をするとともに、子の代理人として、同一債務について連帯保証をし、かつ、親権者と子が共有する不動産について抵当権を設定するなどの判…
事件番号: 昭和44(オ)843 / 裁判年月日: 昭和44年12月19日 / 結論: 棄却
代理人が直接本人の名において権限外の行為をした場合において、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたときは、そのように信じたことについて正当な理由があるかぎり、民法一一〇条の規定を類推して、本人はその責に任ずるものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和54(オ)879 / 裁判年月日: 昭和55年9月26日 / 結論: 棄却
無権代理人がした訴訟行為の追認は、ある審級における手続がすでに終了したのちにおいては、その審級における訴訟行為を一体として不可分的にすべきものであつて、すでに終了した控訴審における訴訟行為のうち控訴提起行為のみを選択して追認することは許されない。