代理人が直接本人の名において権限外の行為をした場合において、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたときは、そのように信じたことについて正当な理由があるかぎり、民法一一〇条の規定を類推して、本人はその責に任ずるものと解するのが相当である。
代理人が直接本人の名で権限外の行為をした場合と民法一一〇条の類推適用
民法110条
判旨
代理人が本人の名において権限外の行為をした場合でも、相手方が代理人を本人自身であると信じたことについて正当な理由があるときは、民法110条が類推適用される。
問題の所在(論点)
代理人が本人になりすまして権限外の法律行為を行った場合、相手方が代理人を本人自身であると信じたことについて、民法110条の表見代理の規定を類推適用できるか。また、その際の「正当な理由」の有無が問題となる。
規範
代理人が本人の名において権限外の行為をした場合、相手方は代理権を信じたわけではない。しかし、その信頼が取引上保護に値する点においては、代理権の存在を信頼した場合と異ならない。したがって、相手方が「本人自身の行為」であると信じたことについて「正当な理由」がある場合に限り、民法110条を類推適用して本人が責任を負うと解すべきである。
重要事実
Dは、被上告人Bの代理人として、B名義の印鑑証明書と実印を所持し、本人になりすまして上告人と売買契約を締結した。上告人はDをB本人であると誤信したが、Dは自己と同年輩であったのに対し、印鑑証明書上のBの年齢は15歳も年上であった。上告人はこの生年月日の記載にさほど留意せず、Dの言動や所持品から本人であると信じ込んだ。
事件番号: 昭和63(オ)924 / 裁判年月日: 平成3年3月22日 / 結論: 棄却
未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲…
あてはめ
上告人は、Dが本人名義の実印と印鑑証明書を所持し、本人らしい言動をしたことから本人と信じている。しかし、提出された印鑑証明書には本人の生年月日が記載されており、注意を払えばDとの年齢差(15歳)を容易に認識できたはずである。上告人がこの点に留意しなかったことは、取引上の注意義務を欠いた過失があるといわざるを得ない。したがって、本人であると信じたことについて「正当な理由」があるとは認められない。
結論
民法110条の類推適用は認められる余地があるが、本件では「正当な理由」が欠けるため、表見代理の成立は否定され、本人は責任を負わない。
実務上の射程
本人名義を用いた無権代理(署名代理等)における表見代理の成否を論ずる際のリーディングケースである。答案上は、110条を直接適用できない理由(代理権を信じたわけではない点)を指摘した上で、保護の必要性の共通点から類推適用を肯定する論理を展開する。あてはめでは、印鑑証明書等の提示書類と現人物の不一致を見過ごしたことが正当な理由を否定する要素となる点に留意する。
事件番号: 昭和41(オ)238 / 裁判年月日: 昭和43年10月17日 / 結論: 破棄差戻
不動産について売買の予約がされていないのにかかわらず、相通じて、その予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続をした場合において、外観上の仮登記権利者がほしいままに右仮登記に基づき、所有権移転の本登記手続をしたときは、外観上の仮登記義務者は、右本登記の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗することができないと解すべき…
事件番号: 昭和32(オ)17 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人が本人になりすまして契約を締結した「署名代行型」の事案において、代理人として行為する意思がない以上、無権代理行為を前提とする追認(民法113条1項)は成立しない。 第1 事案の概要:訴外Dは、被上告人Bの不在中に無断で、Bが預けていた実印を冒用した。DはB本人になりすまして、上告人との間で売買…
事件番号: 昭和44(オ)174 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、その所有の不動産を乙に売り渡し、乙の代理人丙を介して白紙委任状、名宛人白地の売渡証書など登記関係書類を交付したところ、右不動産の所有権を取得した乙から、これを丁所有の不動産と交換することを委任されて右各書類の交付を受けた丙が、これを濫用し、甲の代理人名義で丁との間で交換契約を締結したときは、丁において丙に代理権が…