定款で株式の譲渡制度を定めている会社において、いわゆる従業員持株制度に基づいて取得した株式を退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の会社と従業員との間でされた合意は、従業員が、右制度の趣旨、内容を了解した上で株式を額面額で取得し、毎年八ないし三〇パーセントの割合による配当を受けていたなど判示の事実関係の下においては、商法二〇四条一項に違反するものではなく、公序良俗にも反せず、有効である。
いわゆる従業員持株制度に基づいて取得した株式を退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の会社と従業員との合意が有効とされた事例
商法204条1項,民法90条
判旨
従業員持株制度に基づき、退職時に取得株式を額面額で会社指定の者に譲渡する旨の合意は、株式譲渡の自由(会社法127条参照)を不当に制限するものではなく、公序良俗にも反せず有効である。
問題の所在(論点)
従業員持株制度において、退職時に「株式を額面額で譲渡する」旨を義務付ける合意が、株式譲渡自由の原則(旧商法204条1項、現会社法127条)や公序良俗に反して無効とならないか。
規範
1. 株式譲渡制限を設ける定款規定がある会社において、特定の目的(従業員持株制度等)のために、退職等の事由が発生した際に譲渡を義務付ける合意は、その目的が合理的であり、株主の投下資本回収の機会を完全に奪うものでない限り、株式譲渡自由の原則(会社法127条)に違反せず、公序良俗(民法90条)にも反しない。 2. 特に、額面額での譲渡合意についても、制度の趣旨・内容を了解した上での合意であり、配当等を通じて一定の利益享受がなされている場合には、その有効性が認められる。
重要事実
1. 被上告会社は譲渡制限会社であり、従業員の財産形成と一体感醸成を目的とした従業員持株制度を導入していた。 2. 上告人らは、退職時に株式を額面額で会社指定の者に譲渡する合意(本件合意)を承諾した上で、額面額で株式を取得した。 3. 上告人らを含む全従業員の約3割が一斉退職し、会社は混乱により即座に譲受人を指定できなかったが、約2年後に指定を行い、指定された第三者が代金を供託した。 4. 会社は過去に高水準の株式配当(年8〜30%)を継続的に行っていたが、一斉退職後の経営悪化により配当を停止していた。
事件番号: 平成20(受)1207 / 裁判年月日: 平成21年2月17日 / 結論: 棄却
いわゆる持株会が採用した株式譲渡ルールに従い,株式会社の従業員が持株会から譲り受けた株式を個人的理由により売却する必要が生じたときは持株会が額面額でこれを買い戻す旨の当該従業員と持株会との間の合意は,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,会社法107条及び127条の規定に反するものではなく,公序良俗にも反せず,有…
あてはめ
1. 本件合意は、従業員持株制度の趣旨(福利厚生や会社発展への寄与)に則ったものであり、目的において合理性がある。 2. 上告人らは制度の内容を了解した上で、取得時も額面額という安価な価格で取得しており、譲渡時も同額とすることは不合理ではない。 3. 過去に相当な割合の配当が行われていた事実に照らせば、株主としての経済的利益を一定程度享受しており、投下資本回収の機会が不当に奪われたとはいえない。 4. 譲受人指定が退職から約2年後となった点も、一斉退職による経営混乱という特殊事情に起因するものであり、合意の効力を左右しない。
結論
本件合意は有効であり、会社側が指定した譲受人が買受けの意思を示したことで、上告人らは株式を喪失した。したがって、上告人らの株券発行請求は認められない。
実務上の射程
従業員持株会やストックオプション類似の合意において、譲渡価格を「額面」や「取得価額」に固定する契約の有効性を肯定する根拠として活用できる。ただし、配当が全くない場合や、取得価格と時価に著しい乖離がある中で売却を強いる場合など、投下資本回収が極端に困難な事案では、公序良俗違反の余地が残る点に留意が必要である。
事件番号: 昭和56(オ)85 / 裁判年月日: 昭和57年2月9日 / 結論: 破棄差戻
昭和四一年法律第八三号による改正前の商法二〇五条一項に定める方法によらない記名株式の譲渡は、無効である。
事件番号: 令和4(受)1266 / 裁判年月日: 令和6年4月19日 / 結論: 破棄差戻
1 株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない。 2 株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)423条1項本文により、譲渡人の…