有責配偶者である夫からされた離婚請求において、夫が別居後の妻子の生活費を負担し、離婚請求について誠意があると認められる財産関係の清算の提案をしているなど判示の事情のあるときは、約八年の別居期間であっても、他に格別の事情のない限り、両当事者の年齢及び同居期間との対比において別居期間が相当の長期間に及んだと解すべきである。
有責配偶者からの離婚請求において別居期間が相当の長期間に及んだものとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求における「相当の長期間」の別居の存否は、単なる数量的比較だけでなく、時の経過に伴う当事者双方の諸事情の変容や社会的評価の変化も考慮して判断すべきである。
問題の所在(論点)
民法770条1項5号所定の事由がある場合において、破綻に専ら責任のある有責配偶者からの離婚請求が信義則上許されるための要件の一つである「相当の長期間」の別居の有無を、どのように判断すべきか。
規範
有責配偶者からの離婚請求(民法770条1項5号)が信義則(1条2項)に照らし許容されるか否かの判断において、別居期間が「相当の長期間」に及んだかは、別居期間と当事者の年齢・同居期間を数量的に対比するのみでは足りない。別居後の時の経過により、当事者双方の諸事情(生活費の負担状況、不貞関係の解消、財産分与の提案、相手方の対応等)が変容し、その社会的意味や評価が変化したことも含めて総合的に考慮すべきである。
重要事実
夫(上告人)と妻(被上告人)は婚姻約23年で、夫が不貞相手と同棲するため家を出て別居を開始した。別居は約8年に及び、その間、夫は不貞相手と別れ、妻に対し月額20〜60万円の生活費を送り続け、離婚に際しては不動産売却益の折半という具体的かつ誠意ある清算案を提示した。一方、妻は関係継続を望みつつも夫名義の不動産を仮差し押さえし、成人の子らは離婚を母親の意思に委ねる意向を示していた。原審は、年齢等に比して8年の別居は短すぎるとし、離婚請求を棄却した。
あてはめ
本件では、別居期間は約8年であるが、数量的な対比のみならず以下の諸事情を考慮すべきである。第一に、夫は別居後も多額の生活費を負担し続け、不貞関係も早期に解消している。第二に、財産清算について具体的で誠意ある提案を行っており、離婚によって妻が経済的に困窮する恐れは低い。第三に、妻側も仮処分の執行などを行っており、成人の子らも反対していない。これらの事由は、別居の継続とともに当事者間の関係の社会的評価が変容していることを示唆しており、単なる期間の長短だけで「相当の長期間」に当たらないと断定することはできない。
結論
別居期間の数量的比較のみに基づき離婚請求を棄却した原判決には、民法1条2項および770条1項5号の解釈適用の誤りがあるため、破棄し、更なる審理のため差し戻す。
実務上の射程
昭和62年の大法廷判決が示した「有責配偶者からの離婚請求」の3要件(相当の長期間の別居、未成熟子の不存在、過酷条項の不存在)のうち、別居期間の要件を柔軟に解釈した事例である。答案上は、10年に満たない程度の別居期間であっても、生活費の支払状況や有責性の解消、財産的給付の誠意といった「時の経過による事情の変容」を拾い、期間の短さを補完する論法として活用できる。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。