約一〇か月の同居の後妻(昭和二三年生)が他の男性と同棲するため夫(同二五年生)と別居して以来約一〇年三か月が経過し、夫婦の間に未成熟の子がなく、夫は、主に感情的理由から婚姻の継続を望んでいるにすぎず、継続して外国航路の船のコツクとして働いているなど判示の事情のもとにおいては、夫婦の別居期間は双方の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶというべきであり、しかも、有責配偶者たる妻からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。 (意見がある。)
別居期間が約一〇年三か月でその間に未成熟の子がない夫婦につき有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえないとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求であっても、別居が相当の長期間に及び、未成熟の子が存在せず、相手方配偶者が過酷な状態に置かれる等の特段の事情がない限り、認容され得る。
問題の所在(論点)
婚姻の破綻について専ら責任のある配偶者(有責配偶者)からの離婚請求が、民法770条1項5号に基づき認められるための要件。
規範
民法770条1項5号所定の事由がある場合、有責配偶者からの離婚請求は、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない限り、許容される。
重要事実
上告人(夫)と被上告人(妻)は昭和51年に婚姻。同年9月、妻が他男と不貞関係になり、同11月にアパートを飛び出し同棲。昭和52年に夫が同居調停、昭和54年に夫が不貞相手へ損害賠償請求(250万円受領)、昭和56年に夫から離婚調停を申し立てる(不成立)等の経緯を経て、別居期間は約10年3か月に及んだ。二人の間に子はいない。妻はアルコール依存症等で加療中だが寛解状態にあり、実家を手伝っている。夫は年収400万円の経済力があり、離婚を拒否する理由は妻への憎悪や意地といった感情的なものに留まり、関係修復の努力も生活費の送金も行っていなかった。
あてはめ
第一に、別居期間は約10年3か月に及び、同居期間(約1年10か月)や当事者の年齢(30代後半)との対比において相当の長期間といえる(①充足)。第二に、夫婦間に子はいない(②充足)。第三に、夫は十分な経済力を有しており、離婚拒絶の主たる動機が意地や憎悪といった感情的なものであって関係修復の真摯な努力も見られないことから、離婚によって夫が精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等の特段の事情は認められない(③充足)。
結論
本件離婚請求は、有責配偶者からの請求であることをもって直ちに拒絶されるべきではなく、認容するのが相当である。
実務上の射程
昭和62年大法廷判決の枠組みを具体的事案に適用した射程を示すもの。特に「相当の長期間」の判断において、同居期間との対比が重要であること、および「特段の事情」の判断において拒絶側の真摯な修復意思の欠如や経済的自立性が考慮されることを示している。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。