有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二八年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。
有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等を理由として認容すべきであるとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求であっても、別居が相当の長期間に及び、未成熟の子が存在せず、相手方配偶者が過酷な状態に置かれるなどの特段の事情がない限り、認容され得る。
問題の所在(論点)
婚姻関係が破綻している場合において、その破綻について専ら責任のある有責配偶者からの離婚請求(民法770条1項5号)が、信義則(1条2項)上許されるための要件が問題となる。
規範
民法770条1項5号所定の事由につき専ら責任のある者(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として許されない。しかし、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような「特段の事情」のない限り、認容される(最大判昭62・9・2参照)。
重要事実
夫(上告人)と妻(被上告人)は昭和24年に婚姻し、4人の娘をもうけた。夫は昭和25年頃から不貞を繰り返し、昭和30年代からは自宅に帰らないことが多くなった。昭和45年頃からは別の女性と同棲し、生活費を渡さなくなった。昭和50年頃から別の女性と同棲を続け、現在に至る。妻は共同生活の回復を望んでいないが、不信感等から離婚を拒絶している。別居期間は約16年に及び、子供はいずれも成人している。原審は、破綻の責任が専ら夫にあるとして、夫からの請求を棄却した。
あてはめ
本件において、婚姻関係は回復不可能なまでに破綻しており、夫は不貞や遺棄を継続した有責配偶者である。しかし、夫と妻の別居期間は約16年に及んでおり、同居期間や双方の年齢(約40年の婚姻期間中、後半16年が別居)と対比しても「相当の長期間」といえる。また、4人の娘はすべて成人しており「未成熟の子」は存在しない。したがって、妻が離婚により極めて苛酷な状態に置かれるといった「特段の事情」がない限り、離婚請求は認められるべきである。原審は、この特段の事情の有無を審理せずに責任の有無のみで請求を棄却しており、法の解釈適用に誤りがある。
結論
原判決を破棄し、特段の事情(離婚による苛酷な状態の有無)や財産分与について更に審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
有責配偶者からの請求を認めた最大判昭62・9・2(踏み絵判決)の判断枠組みを、実務上定着させた事例である。答案では、まず「破綻」を認定した上で、信義則上の制約として上記3要件(別居期間・未成熟子・苛酷条項)を論じる。別居期間の「相当の長期」は相対的に判断されるが、本件の約16年は有力な指標となる。
事件番号: 昭和62(オ)843 / 裁判年月日: 昭和63年12月8日 / 結論: 棄却
約一〇か月の同居の後妻(昭和二三年生)が他の男性と同棲するため夫(同二五年生)と別居して以来約一〇年三か月が経過し、夫婦の間に未成熟の子がなく、夫は、主に感情的理由から婚姻の継続を望んでいるにすぎず、継続して外国航路の船のコツクとして働いているなど判示の事情のもとにおいては、夫婦の別居期間は双方の年齢及び同居期間との対…