一 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。 二 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が三六年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。 (一につき補足意見、一、二につき意見がある。)
一 長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求 二 有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等を理由として認容すべきであるとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)につき専ら責任のある配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は、①相当長期の別居、②未成熟の子の不存在、③過酷な状態が生じない等の特段の事情がない限り、信義則に照らし許容される。
問題の所在(論点)
婚姻関係の破綻について専ら責任のある配偶者(有責配偶者)から、民法770条1項5号に基づき離婚を請求することが認められるか。
規範
有責配偶者からの離婚請求であっても、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、信義則(民法1条2項)に照らして許容される。
重要事実
夫(上告人)と妻(被上告人)は昭和12年に婚姻したが、昭和24年頃に夫が不貞相手と同棲を開始し別居。夫は不貞相手との間に子をもうけ認知したが、妻との間には子がなかった。別居期間は約36年に及び、双方70歳を超えていた。夫は経済的に極めて安定している一方、妻は無職で資産がなく、かつて夫名義の建物を売却して生活費に充てたほかは給付を受けていない。夫の離婚請求に対し、原審は有責配偶者からの請求であるとして退けた。
あてはめ
①別居期間は約36年に及び、同居期間(約12年)や双方の年齢(70歳以上)に照らして相当の長期間といえる。②養子らは既に成人しており、未成熟の子は存在しない。③妻の経済的状況は苦しいが、夫は資力を有しており、財産分与や慰謝料による解決が可能である。したがって、離婚により妻が直ちに「極めて苛酷な状態」におかれる等の特段の事情があるか否かを更に審理する必要がある。
結論
有責配偶者からの請求であることのみをもって直ちに排斥することはできず、三要件(長期別居、未成熟子不在、特段の事情の不存在)を検討すべきであるとして、原判決を破棄し差し戻した。
実務上の射程
有責配偶者からの請求を「信義則」の問題として構成し直し、事実上の破綻主義へ舵を切った重要判例。答案では、まず770条1項5号の該否(破綻)を認定した上で、信義則上の制限として本判例の三要件を定立し、あてはめるべきである。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。