有責配偶者である夫からされた離婚請求において、事実審の口頭弁論終結時、夫六〇歳、妻五七歳であり、婚姻以来二六年余同居して二男二女を儲けた後夫が他の女性と同棲するため妻と別居して八年余になるなど判示の事情のあるときは、夫婦の別居期間が双方の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及ぶということができず、右離婚請求を認容することができない。
有責配偶者からの離婚請求が認容することができないとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求であっても、相当長期間の別居、未成熟子の不存在、相手方配偶者が苛酷な状態に置かれない等の特段の事情がない限り、認容され得るが、本件では別居期間が不十分であるとして請求を棄却した。
問題の所在(論点)
民法770条1項5号の事由について専ら責任のある有責配偶者からの離婚請求が、信義則(民法1条2項)に照らして許容されるための要件、特に「別居期間」の判断が問題となる。
規範
民法770条1項5号所定の事由につき専ら又は主として責任のある有責配偶者からの離婚請求は、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない限り、許容される。
重要事実
夫(上告人)と妻(被上告人)は昭和30年に婚姻し4人の子を設けた。夫は妻の家事処理や経済観念への不満から、昭和44年頃に別宅を借り、昭和53年からは勤務先の部下であった女性と同棲状態に至った。夫は「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚を請求したが、原審口頭弁論終結時までの別居期間は約8年余りであった。
あてはめ
本件において、上告人は不貞相手と同棲しており有責配偶者に該当する。要件を検討すると、未成熟子は存在しない(②充足)。しかし、別居期間は約8年であり、昭和27年頃からの同棲・婚姻期間や双方の年齢(請求時50代後半から60代)と比較して、「相当の長期間」(①)に及んでいるとは言い難い。また、その他請求を認容すべき特段の事情も認められない。したがって、期間要件を欠く以上、信義則上離婚は認められない。
結論
有責配偶者からの離婚請求は、別居期間が両当事者の年齢や同居期間と対比して相当長期とはいえないため、棄却される。
実務上の射程
昭和62年大法廷判決の3要件を具体的事案に適用した事例。司法試験においては、有責配偶者からの請求と判明した時点で、直ちに本判例の3要件を提示し、特に「別居期間」が同居期間と比較して十分かどうかを、未成熟子の有無や苛酷条項と併せて検討する枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。