夫が妻のもとを去つて既に別居期間が三〇年に及び夫婦の間に未成熟の子がなく、夫が現在妻の住んでいる住居の購入費を一部負担するなどの援助をし、妻は病気がちであるものの、年金収入により普通の生活をし、夫の再三の離婚申入れに対して結婚した以上は戸籍上の夫婦の記載を守り抜きたいという気持から拒否しつづけているなど判示の事情のもとにおいては、有責配偶者たる夫からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。
別居期間が三〇年に及びその間に未成熟の子がない夫婦につき有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえないとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求であっても、別居が相当の長期間に及び、未成熟の子が存在せず、相手方が過酷な状態に置かれるなどの特段の事情がない限り、認容され得る。
問題の所在(論点)
婚姻破綻について主たる責任のある有責配偶者からの離婚請求が、信義則(民法1条2項)に照らして許されるか。具体的には、有責配偶者の離婚請求が「著しく社会正義に反する」か否かの判断枠組みが問題となる。
規範
民法770条1項5号所定の事由がある場合、有責配偶者からの請求であっても、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない限り、当該請求は許される。
重要事実
夫(原告)は、昭和31年頃に妻子を残して単身上京し、別の女性と30年近く同棲を続けた有責配偶者である。妻(被告)との間には昭和28年生まれの長女(成人)がいるのみである。夫は妻の転居や住宅ローンを経済的に援助しており、妻は病気がちではあるものの年金収入により自立した生活を送っている。夫は誠実な内縁関係にある女性のために離婚を求めたが、妻は戸籍上の夫婦関係維持を求めて拒否した。
あてはめ
まず、約30年に及ぶ別居期間は、同居期間(約4年)や双方の年齢と対比して「相当の長期間」といえる(①充足)。次に、長女は成人しており「未成熟の子」は存在しない(②充足)。さらに、妻は年金により普通の生活を営んでおり、夫からも経済的援助を受けてきた。妻に一定の持病はあるが、離婚によって直ちに精神的・社会的・経済的に「極めて苛酷な状態」に陥るとはいえず、請求認容が社会正義に反する特段の事情は認められない(③充足)。
結論
本件離婚請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできず、認容すべきである。
実務上の射程
昭和62年の大法廷判決が示した「3要件」を再確認し、具体的なあてはめを示した事例である。答案上は、まず770条1項5号該当性を肯定した上で、信義則(1条2項)の問題としてこの3要件(別居期間、未成熟子、苛酷条項)を論じる。特に「相当の長期間」の判断において同居期間との対比を行う点や、苛酷性の判断で経済的給付の有無を考慮する点が実務上の指針となる。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。