甲男が乙女との婚姻継続中、丙女およびその死後丁女と事実上の婚姻関係に入つたことは、もとより不貞の評価を免れず、それ以前すでに乙女との間の婚姻関係が決定的に破綻していたとするのでないかぎり、これが現実に破綻するに至つた原因は、甲男のした右重婚的内縁にあるものと認めるのが相当で、原審が甲男の再度にわたる重婚的内縁を認めながら、これが乙女との間の婚姻関係に及ぼした影響の有無に触れることなく、甲男の本訴請求を認容したのは、審理不尽・理由不備の違法を免れない。
重婚的内縁関係にある配偶者(夫)からの離婚の請求を認容した判断に審理不尽理由不備の違法があるとされた事例
民法770条1項5号,民訴法395条1項6号
判旨
自ら不貞行為を行って婚姻関係の破綻を招いた配偶者が、その破綻を理由として離婚請求をすることは、信義則上許されない。婚姻関係が決定的に破綻した後に不貞が行われた等の特段の事情がない限り、有責配偶者からの請求は棄却されるべきである。
問題の所在(論点)
不貞行為によって婚姻関係の破綻を招いた配偶者(有責配偶者)による離婚請求が、信義則に反し許されないか。民法770条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」の主張の可否が問われた。
規範
自らの不貞行為によって婚姻関係の破綻を招いた配偶者が、当該破綻を理由として離婚請求をすることは許されない。ただし、不貞行為以前に婚姻関係が既に決定的に破綻していたと認められる場合はこの限りではない。
重要事実
上告人(妻)と被上告人(夫)は、親の反対を押し切って婚姻し一女を設けたが、夫の両親との同居問題を巡り対立が生じた。夫は妻を実家に帰した上で別離状を送り、その後、妻や子を顧みないまま別の女性(D)と情交関係に入り、三子を設けるなど重婚的内縁関係を継続した。Dの死亡後も夫は別の女性(E)と同棲を続けている。原審は、破綻の原因は双方の努力欠如にあるとして夫の離婚請求を認容した。
あてはめ
被上告人が他の女性と事実上の婚姻関係(重婚的内縁)に入ったことは不貞の評価を免れない。被上告人が当該関係に入る前に婚姻関係が既に決定的に破綻していた事実は認められず、むしろ被上告人の不貞こそが現実の破綻原因であると解される。したがって、自ら破綻を招いた被上告人が離婚を求めることは、従来の判例が示す有責配偶者からの離婚請求禁止の法理に抵触する。
結論
被上告人の離婚請求を認めた原判決には審理不尽・理由不備の違法がある。原判決を破棄し、広島高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
昭和62年大法廷判決より前の「有責配偶者からの離婚請求」を原則否定する時代の判例である。現行実務では、別居期間・未成熟子の有無・過酷条項の3要件で判断されるが、本判決は「不貞より前に既に破綻していたか」という破綻原因の前後関係を重視する点で、現在でも有責性の有無や程度の判断において参照される。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。