秘密証書によって遺言をするに当たり,遺言者以外の者が,市販の遺言書の書き方の文例を参照し,ワープロを操作して,文例にある遺言者等の氏名を当該遺言の遺言者等の氏名に置き換え,そのほかは文例のまま遺言書の表題及び本文を入力して印字し,遺言者が氏名等を自筆で記載したなど判示の事実関係の下においては,ワープロを操作して遺言書の表題及び本文を入力し印字した者が民法970条1項3号にいう筆者である。
ワープロを操作して秘密証書遺言の遺言書の表題及び本文を入力し印字した者が民法970条1項3号にいう筆者であるとされた事例
民法970条1項3号
判旨
秘密証書遺言において、ワープロ等を用いて遺言書を作成した者は民法970条1項3号にいう「筆者」に当たり、遺言者が公証人に対しその氏名及び住所を申述しない場合は、同条所定の方式を欠き無効となる。
問題の所在(論点)
ワープロを用いて作成された遺言書において、入力・印字を行った者は民法970条1項3号の「筆者」に当たるか。また、遺言者がその筆者の氏名・住所を申述しなかった場合、遺言は有効か。
規範
民法970条1項3号にいう「筆者」とは、遺言書の内容を現実に執筆した者のみならず、ワープロ等を操作して遺言書の表題及び本文を入力し、印字した者も含まれる。秘密証書遺言の方式を具備するためには、遺言者は公証人及び証人の前で、当該「筆者」の氏名及び住所を申述しなければならない。
重要事実
遺言者Dは、財産全部を妻(上告人)に相続させる旨の遺言書を作成した。当該遺言書は、日付の一部と署名を除き、親族Fが市販の文例を参考にワープロで入力・印字したものであった。Dは公証人及び証人の前で、本件遺言書を入れた封書を提出し、自己の遺言書である旨及びD自身がこれを筆記した旨を述べたが、実際にワープロ操作を行ったFの氏名及び住所を申述しなかった。
事件番号: 平成9(オ)2060 / 裁判年月日: 平成11年9月14日 / 結論: 棄却
いわゆる危急時遺言に当たり、立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、民法九七六条一項にいう遺言の趣旨の口授があったものということができる。
あてはめ
本件遺言書の表題及び本文はFがワープロを操作して入力・印字したものであるから、Fが「筆者」に該当する。しかるに、Dは公証人に対し、Fが筆者である旨を申述せず、かえって自ら筆記した旨の虚偽の申述を行っている。したがって、真実の筆者であるFの氏名及び住所の申述を欠いているといわざるを得ない。
結論
本件遺言は、民法970条1項3号所定の方式を欠くため、無効である。
実務上の射程
秘密証書遺言の厳格な要式性を確認した判例である。答案上は、秘密証書遺言の有効性が争われる場面で、自筆以外の手段(ワープロ、代筆)を用いた場合の「筆者」の意義を定義し、方式不備による無効を導く際の根拠として活用する。自書能力が疑われる事案等でも筆者の特定は重要となる。
事件番号: 昭和54(オ)1208 / 裁判年月日: 昭和56年9月11日 / 結論: 棄却
一 遺言無効確認訴訟における確認の利益の存否を判断するにあたつては、原則として、原告の相続分が被相続人から受けた生前贈与等によりなくなるか否かを考慮すべきものではない。 二 単に相続分及び遺産分割の方法を指定したにすぎない遺言の無効確認を求める訴は、固有必要的共同訴訟にあたらない。 三 同一の証書に二人の遺言が記載され…
事件番号: 昭和63(オ)955 / 裁判年月日: 平成元年6月20日 / 結論: 破棄自判
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。
事件番号: 昭和62(オ)1137 / 裁判年月日: 平成元年2月16日 / 結論: 棄却
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。