いわゆる危急時遺言に当たり、立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、民法九七六条一項にいう遺言の趣旨の口授があったものということができる。
いわゆる危急時遺言に当たり民法九七六条一項にいう遺言の趣旨の口授があったとされた事例
民法976条1項
判旨
危急時遺言において、遺言者が証人の問いかけに対し肯定的な返答や頷きを行い、最後に内容を了解した旨を述べることは、特段の事情がない限り、民法976条1項の「遺言の趣旨を口授」したものと認められる。
問題の所在(論点)
死亡の危急に迫った者の遺言(危急時遺言)において、証人が読み上げた遺言の草案に対し、遺言者が肯定的な返答や頷きをすることが、民法976条1項の「遺言の趣旨を口授」したといえるか。
規範
民法976条1項の「遺言の趣旨を口授」とは、遺言者が遺言の内容を証人に口頭で伝えることをいうが、必ずしも遺言者の側から積極的に言明することを要しない。証人があらかじめ作成された草案を読み上げ、遺言者がこれに対して肯定的な返答や挙動をもって真意であることを表明した場合には、遺言者が自ら口頭で述べたのと同等の意思表明が認められるため、同条の「口授」に当たると解するのが相当である。
重要事実
遺言者Dは、重症の疾患により入院中、被上告人に遺言書作成を指示した。弁護士が草案を作成し、証人となった医師Gらが病室を訪れた。G医師が草案を一項目ずつ読み上げ、その都度Dは「はい」と返答し、頷きを見せた。一部の記載(遺言執行者の氏名)に首をかしげた際も、説明を受けて「うん」「はい」と答え、最後には「よくわかりました。よろしくお願いします」と明確に返答した。その後、G医師らは医師室で当該草案を清書し、署名押印して遺言書を作成した。
あてはめ
Dは意識が清明な状態で自ら遺言の作成を指示しており、遺言の意思が明確であった。G医師による草案の読み上げに対し、Dは一項目ごとに「はい」と返答し頷いており、内容を正確に確認しているといえる。不明点についても説明を受けて納得の意を示し、最終的に「よくわかりました」と包括的な承諾を与えている。このようなプロセスを経て行われた肯定的な意思表示は、草案内容と同趣旨の遺言を口頭で表明したのと同視でき、口授の要件を満たすと評価される。
結論
本件遺言は民法976条1項所定の「口授」の要件を満たし、有効である。
実務上の射程
危急時遺言における口授の緩和を認めた重要判例である。同様の緩和は公正証書遺言(969条2号)の口授でも認められるが、どちらも「遺言者の意思が外部から明確に確認できること」が前提となる。答案では、言語能力や意識状態の事実を拾い、草案の読み上げに対する反応が実質的に口頭での説明と同視できるかを論理的に示す必要がある。
事件番号: 昭和54(オ)20 / 裁判年月日: 昭和54年7月5日 / 結論: 棄却
公証人が予め他人作成のメモにより公正証書作成の準備として筆記したものに基づいて遺言者の陳述を聞き、右筆記を原本として公正証書を作成した場合であつても、原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、右公正証書による遺言は口授の要件を欠くものということはできない。
事件番号: 平成14(受)432 / 裁判年月日: 平成14年9月24日 / 結論: 棄却
秘密証書によって遺言をするに当たり,遺言者以外の者が,市販の遺言書の書き方の文例を参照し,ワープロを操作して,文例にある遺言者等の氏名を当該遺言の遺言者等の氏名に置き換え,そのほかは文例のまま遺言書の表題及び本文を入力して印字し,遺言者が氏名等を自筆で記載したなど判示の事実関係の下においては,ワープロを操作して遺言書の…
事件番号: 昭和63(オ)955 / 裁判年月日: 平成元年6月20日 / 結論: 破棄自判
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。