公証人が予め他人作成のメモにより公正証書作成の準備として筆記したものに基づいて遺言者の陳述を聞き、右筆記を原本として公正証書を作成した場合であつても、原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、右公正証書による遺言は口授の要件を欠くものということはできない。
公正証書による遺言が口授の要件を欠くものとはいえないとされた事例
民法969条
判旨
公正証書遺言において、遺言者の口授が十分な言語能力に基づくものであり、公証人の筆記内容と遺言者の真意との同一性が認められる場合には、その遺言は有効である。
問題の所在(論点)
公正証書遺言(民法969条)の成立要件である「口授」の意義、および遺言者の意思表示が不十分な場合における遺言の効力が問題となる。
規範
民法969条2号が定める「口授」とは、遺言者が遺言の趣旨を口頭で公証人に述べることをいう。もっとも、一言一句を遺言者自ら述べる必要はなく、あらかじめ準備された案文や公証人の問いかけに対し、遺言者がその内容を理解した上で肯定の意思表示を行い、かつ、その内容が遺言者の真意に合致していると客観的に認められる場合には、同条の要件を充足するものと解される。
重要事実
本件では遺言者Dが公正証書遺言を作成したが、その際の言語能力や意思疎通の程度、公証人とのやり取りの具体的内容について争われた。第一審・控訴審は、証拠関係に基づき、Dに遺言能力があり、かつ公証人による遺言内容の筆記がDの真意を正確に反映していると認定した。これに対し、上告人は、遺言の手続において民法が要求する厳格な「口授」が欠けており、遺言は無効であると主張して上告した。
あてはめ
原審が認定した事実関係によれば、Dの遺言内容は公正証書として作成される際、D自身の意思に基づき適切に公証人に伝えられていた。上告人が主張する大審院判決の事例とは異なり、本件ではDの真意と公正証書の筆記内容との間に齟齬はなく、形式的・手続的な不備があるとは認められない。したがって、Dによる意思表示は、実質的に「口授」としての機能を果たしており、法的な有効性を否定するほどの違法はないと評価される。
結論
本件遺言公正証書によるDの遺言は有効であり、無効とはいえない。上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、公正証書遺言における「口授」の要件を柔軟に解釈する実務傾向を肯定したものである。答案上では、病床にある遺言者が公証人の問いに頷くだけのような事案において、事前の案文送付や当日の理解確認という事実を拾い、「口授」の欠缺を否定する際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和54(オ)1208 / 裁判年月日: 昭和56年9月11日 / 結論: 棄却
一 遺言無効確認訴訟における確認の利益の存否を判断するにあたつては、原則として、原告の相続分が被相続人から受けた生前贈与等によりなくなるか否かを考慮すべきものではない。 二 単に相続分及び遺産分割の方法を指定したにすぎない遺言の無効確認を求める訴は、固有必要的共同訴訟にあたらない。 三 同一の証書に二人の遺言が記載され…
事件番号: 平成9(オ)2060 / 裁判年月日: 平成11年9月14日 / 結論: 棄却
いわゆる危急時遺言に当たり、立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、民法九七六条一項にいう遺言の趣旨の口授があったものということができる。