遺言公正証書には、公証人が遺言者から印鑑証明書を提出させたとの記載がありながら、その印鑑証明書が連綴されていない場合でも、その作成にあたり民法九六九条に定める方式に則り証人二人が遺言を確認し、遺言者本人が署名押印したことが証書の記載によつて明らかにされており、かつ、公証人が遺言者の氏名を知り、面識があつてその確認手続において欠けることのなかつたことが、右遺言公正証書の作成の直前に同じ公証人の作成した別の公正証書の記載によつて明らかにされているときは、右遺言公正証書は、その効力を認めて妨げない。
嘱託人の確認手続に関する記載に誤りがある遺言公正証書の効力が認められた事例
民法969条,公証人法2条,公証人法28条,公証人法36条4号,公証人法36条6号,公証人法41条1項
判旨
公正証書遺言において、公証人が嘱託人の氏名を知り面識がある旨の記載を欠き、印鑑証明書の連綴もなかったとしても、他の公正証書の記載等から遺言者本人による嘱託が確実であれば、遺言は有効である。
問題の所在(論点)
公正証書遺言において、嘱託人の本人確認資料(印鑑証明書)の連綴がなく、かつ公証人法が求める本人確認(氏名知認)の記載を欠く場合、民法969条の定める方式に違反し無効となるか。
規範
公正証書遺言(民法969条)の効力は、証人の立会い、遺言者の署名押印といった法定方式の遵守が証書自体から明らかであり、かつ嘱託人が本人であることが確実であると認められる場合には、嘱託人の確認方法に関する細部の不備(公証人法所定の確認手続の不備)のみをもって直ちに否定されるものではない。
重要事実
遺言者Dが公正証書遺言を作成した際、当該証書には「印鑑証明書を提出させ人違いでないことを証明させた」旨の記載があったが、実際には印鑑証明書が連綴されていなかった。また、公証人が嘱託人の氏名を知り面識がある旨の記載も欠けていた。しかし、当該遺言作成の1週間前にも同一の公証人がDの嘱託に基づき別の公正証書を作成しており、公証人はDと面識があった。
あてはめ
本件証書には、民法969条が定める証人2人の立会い、遺言の確認、遺言者本人の署名押印という方式の遵守が明確に記載されている。これに加え、作成の1週間前に同一公証人がDの嘱託を受け公正証書を作成した事実から、公証人がDの氏名を知り面識があったことは明らかである。したがって、形式上の記載不備はあるものの、遺言者本人の嘱託に係るものであることは客観的に確実であるといえる。
結論
本件遺言公正証書は、方式の欠缺による無効とはならず、その効力を認めることができる。
実務上の射程
遺言の厳格な方式性を緩和する判例である。公証人法上の義務(本人確認手続)に形式的な不備があっても、民法が定める遺言の成立要件(嘱託人の真意の確保)が実質的に満たされ、本人性が担保されている場合には遺言を有効とする構成をとる際に引用すべきである。
事件番号: 平成9(オ)218 / 裁判年月日: 平成10年3月13日 / 結論: 棄却
一 公正証書遺言において、証人は、遺言者の署名押印に立ち会うことを要する。 二 公正証書遺言において、遺言者が、証人甲乙の立会いの下に、遺言の趣旨を口授しその筆記を読み聞かされた上で署名をしたところ、印章を所持していなかったため、約一時間後に、甲のみの立会いの下に、再度筆記を読み聞かされて押印を行ったが、乙は、その直後…
事件番号: 昭和62(オ)1180 / 裁判年月日: 平成元年6月23日 / 結論: 破棄差戻
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。 (反対意見がある。)