一 公正証書遺言において、証人は、遺言者の署名押印に立ち会うことを要する。 二 公正証書遺言において、遺言者が、証人甲乙の立会いの下に、遺言の趣旨を口授しその筆記を読み聞かされた上で署名をしたところ、印章を所持していなかったため、約一時間後に、甲のみの立会いの下に、再度筆記を読み聞かされて押印を行ったが、乙は、その直後ころ、公証人から完成した遺言公正証書を示されて右押印の事実を確認したのであって、この間に遺言者が従前の考えを翻し、又は右遺言公正証書が遺言者の意思に反して完成されたなどの事情は全くうかがわれないなど判示の事実関係の下においては、右遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があるというべきであるが、その効力を否定するほかはないとまではいえない。
一 公正証書遺言において証人が遺言者の署名押印に立ち会うことの要否 二 遺言者の押印の際に二人の証人のうち一人の立会いなく作成された遺言公正証書につきその作成の方式に瑕疵があるがその効力を否定するほかはないとまではいえないとされた事例
民法969条,公証人法2条
判旨
公正証書遺言において証人は署名押印の際にも立ち会う必要があるが、一部の証人が押印時に不在であっても、遺言者の真意が確保され、意思に反して作成された等の事情がない場合には、例外的に遺言は有効となる。
問題の所在(論点)
民法969条所定の公正証書遺言において、証人の一人が遺言者の押印時に席を外していた場合、同条1号の「証人二人以上の立会い」を欠くものとして、遺言は無効となるか。
規範
民法969条1号が2人以上の証人の立会いを必要とした趣旨は、遺言者の真意を確保し、紛争を未然に防止することにある。したがって、証人は同条4号の署名押印の際にも立ち会うことを要するのが原則である。もっとも、方式の瑕疵があっても、遺言者の真意の確保という制度趣旨が実質的に害されない特段の事情がある場合には、遺言の効力を否定すべきではない。
重要事実
事件番号: 平成10(オ)1037 / 裁判年月日: 平成13年3月27日 / 結論: 棄却
遺言公正証書の作成に当たり当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても,この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,同遺言が無効となるものではない。
遺言者Dは公証人及び証人2人(F、G)の立会い下で遺言の口述を行い、筆記の正確性を承認して署名した。しかし印章がなかったため手続が中断され、約1時間後に公証人が印章を持参して戻った際、証人Fは待合室に留まり、証人Gのみが立ち会う中でDが押印した。Fは押印直後に公証人から完成した遺言書を示され、内容を確認した。
あてはめ
本件では、証人Fが押印時に立ち会っておらず、方式に瑕疵がある。しかし、(1)Fは署名時までは立ち会っており、(2)中断は1時間程度の比較的短時間であり、(3)再開時に改めて筆記の読み聞かせと内容確認が行われ、(4)Fも直後に完成品を確認している。これらの事実によれば、中断の前後でDが意思を翻した形跡はなく、遺言がDの真意に基づかないものとなった事情も認められない。したがって、遺言者の真意確保という制度趣旨は害されていないといえる。
結論
本件遺言公正証書の方式の瑕疵は、その効力を否定しなければならないほど重大なものとはいえず、遺言は有効である。
実務上の射程
公正証書遺言の方式違反(立会い欠如)に関する救済法理として重要。原則として署名押印への立会いが必要であると示しつつ、実質的に真意が確保されている場合には、厳格な要式性を緩和して遺言を有効とする枠組みを提示している。答案では「趣旨から遡った合理的な解釈」として引用できる。
事件番号: 平成13(受)398 / 裁判年月日: 平成16年2月26日 / 結論: 破棄差戻
現時点においては公証人の署名押印がある遺言公正証書原本について,当該原本を利用して作成された謄本の作成方法についての公証人及び書記の証言等の内容に食違いがあることなどを理由として,上記謄本作成の時点において公証人の署名押印がなかったとした原審の認定判断には,上記謄本の作成方法についての公証人及び書記の証言等は,その細部…
事件番号: 平成9(オ)2060 / 裁判年月日: 平成11年9月14日 / 結論: 棄却
いわゆる危急時遺言に当たり、立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、民法九七六条一項にいう遺言の趣旨の口授があったものということができる。