商標法56条1項において準用する特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,上記瑕疵は,審決を取り消すべき違法には当たらない。
商標法56条1項において準用する特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵が審決を取り消すべき違法に当たらない場合
商標法56条1項,特許法153条2項
判旨
商標取消審判において、当事者が申し立てない理由を審理する際に意見申立ての機会(特許法153条2項)を欠く瑕疵があっても、不意打ちにならない事情があれば審決は違法とならない。具体的には、申立理由と事実関係が主要部分で共通し、審判手続上反論の機会が実質的に保障されていた場合には、手続的瑕疵は取消事由に当たらない。
問題の所在(論点)
審判において当事者の申し立てない理由に基づき判断を下す際、特許法153条2項に規定された通知・意見申立ての手続を欠いた場合、その審決は直ちに違法として取り消されるべきか。
規範
特許法153条1項(商標法56条で準用)により、審判官は職権で当事者の申し立てない理由についても審理できる。同条2項が意見申立ての機会を要求する趣旨は、当事者の不意打ちを防止し反論機会を保障する点にある。したがって、①職権で審理された理由を基礎付ける事実関係が、当事者の申し立てた理由と主要な部分で共通し、かつ②職権による審理が手続に現れていて、反論の機会が実質的に与えられていたと評価できるなど、不意打ちにならないと認められる事情があるときは、同条2項の手続を欠いても審決を取り消すべき違法には当たらない。
重要事実
商標権者である被上告人は、指定商品(楽器)に本件商標「mosrite」と「of California」の筆記体表示(使用商標)を付して販売した。上告人は、この使用商標が上告人・G社の商品と混同を生じさせるとして商標法51条1項に基づき取消審判を請求した。特許庁は、上告人が明示的に主張しなかった「原作者H(故人)の製作したギターとの出所混同」を理由に登録を取り消した。その際、特許法153条2項に基づく事前の通知と意見申立ての機会付与を行わなかった。原審は、この手続不備を理由に審決を違法として取り消したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件では、上告人の当初の申立理由(G社等との混同)と審決の理由(H氏の商品との混同)は、H氏の表示の周知性や誤認混同の有無など、判断の基礎となる主要な事実関係において共通している。また、記録によれば、H氏関連の混同については上告人の弁駁書に記載され、被上告人自身も審判手続内でそれに関連する立証活動を行っていた。これらの事情に鑑みれば、通知手続が欠けていたとしても、被上告人にとって不意打ちであったとはいえず、実質的な不利益は生じていないと解される。
結論
本件審決に特許法153条2項所定の手続を欠く瑕疵があるとしても、不意打ちにならない事情がある以上、審決を取り消すべき違法には当たらない。原判決は破棄される。
実務上の射程
行政手続における「手続的瑕疵と処分取消し」の一般論としても引用可能だが、司法試験上は、商標法(又は特許法)の職権審理原則と適正手続の調和という文脈で用いる。不意打ち防止という実質的観点から手続瑕疵の治癒を認める論理として、行政法的な視点(手続の瑕疵が結論に影響を及ぼしたか)を商標審判に投影した判例である。
事件番号: 昭和41(行ツ)53 / 裁判年月日: 昭和42年6月9日 / 結論: 棄却
特許法第一五六条第一項で所定の審理終結の通知が審決書作成の日より遅れて発せられたというだけでは、右審決取消の理由とするに足りない。
事件番号: 昭和43(行ツ)78 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 棄却
弁理士が、特許庁に在職中審判官として取り扱つた審判事件につき、退職後、弁理士法八条二号に違反して、右事件の審決の取消訴訟を提起した場合には、相手方が右違反行為に異議を述べているかぎり、提訴を無効と解すべきである。