モノアゾ染料の製法の発明についての特許が特許法二九条二項の規定に違反し無効であるとする審決の審決書に、その理由として、「本件特許の上記第一番目の発明において、その余の成分を使用する場合については、該成分はいずれも上記成分と同様に使用できる相互置換容易の化合物であり、さらに生成染料について、本件特許明細書には、該染料が、ある特定の成分を使用した場合のみ著しく価値あるものとすべき十分の根拠を示していないことから判断して、夫夫の生成染料は上記染料と同程度の価値のものとしての認識を出ていないものと解するを相当とする。」と記載されているだけで、右判断の根拠が証拠による認定事実に基づき具体的に明示されていない場合には、審決書は特許法一五七条二項四号の要求する審決理由の記載を欠くものであり、右審決は違法である。
特許を無効にする審決が適法な理由の記載を欠くとして違法とされた事例
特許法157条2項4号
判旨
特許無効審判の審決書に記載すべき理由(特許法157条2項4号)は、特段の事由がない限り、判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要する。判断を結論的に示すにとどまり、具体的根拠を欠く審決は、理由の不備として違法となる。
問題の所在(論点)
特許法157条2項4号(現行157条2項)が定める「審決の理由」として、どの程度の記載が必要とされるか。
規範
特許法157条2項4号が審決に理由の記載を要求する趣旨は、①審判官の恣意を抑制し公正を保障すること、②当事者に取消訴訟提起の便宜を与えること、③裁判所の審査対象を明確にすることにある。したがって、技術上の顕著な事実について判断を示す場合等の特段の事由がない限り、審決の最終的な判断に至る根拠を、証拠による認定事実に基づき具体的に明示しなければならない。
重要事実
特許無効審判において、本件発明が特許法29条2項(進歩性)に違反し無効であるとした審決に対し、特許権者が取消訴訟を提起した。審決書には、本件発明の成分が引用例の発明と「相互置換容易」であり、生成染料も「同程度の価値のもの」と認識されると記載されていたが、そのような判断に至った証拠上の具体的な根拠は示されていなかった。
事件番号: 昭和54(行ツ)134 / 裁判年月日: 昭和59年3月13日
【結論(判旨の要点)】審決取消訴訟における特許無効の存否に関する裁判所の審理判断は、審判手続において当事者が主張し、かつ審理判断された審絶の理由に照らし、審決の適否を判断すべきものである。審決の結論を維持するために審理対象外の新たな証拠や理由に基づき判断することは許されない。 第1 事案の概要:特許庁が、本件発明(シア…
あてはめ
本件審決書は、ジアゾ成分やカプリング成分の置換の容易性、および生成染料の価値について判断を示しているが、これはいわば結論的に示すにとどまっている。染料の技術分野において、証拠による認定事実に基づき判断の根拠を具体的に明示していない以上、技術上の顕著な事実を扱う等の特段の事由がない本件では、法の要求する理由の記載を具備しているとはいえない。また、第二発明についても第一発明の理由を引用しつつ格別の意義がない旨を付加するのみであり、同様に理由の記載を欠くといえる。
結論
本件審決は、特許法157条2項4号に定める理由の記載を欠く違法があるため、取り消されるべきである。
実務上の射程
行政法における「理由提示の不備」と同様の論理であるが、特許審判の専門性・慎重性を背景に、より厳格に「認定事実に基づいた具体的根拠」を要求している点に特徴がある。知財訴訟における審決取消事由(手続違法)を論じる際の必須の規範である。
事件番号: 平成13(行ヒ)7 / 裁判年月日: 平成14年9月17日 / 結論: 破棄差戻
商標法56条1項において準用する特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,上記瑕疵は,審決を取り消すべき違法には当たらない。
事件番号: 昭和41(行ツ)53 / 裁判年月日: 昭和42年6月9日 / 結論: 棄却
特許法第一五六条第一項で所定の審理終結の通知が審決書作成の日より遅れて発せられたというだけでは、右審決取消の理由とするに足りない。