特許法第一五六条第一項で所定の審理終結の通知が審決書作成の日より遅れて発せられたというだけでは、右審決取消の理由とするに足りない。
審理終結の通知を発する以前に審決書を作成することの適否
特許法156条
判旨
特許法156条の審理終結通知は、不意打ち審決の防止と審理の促進を目的とする手続規定であり、これに違反しても当事者に実質的な不利益が生じず審決の結果に影響を及ぼさない限り、審決取消事由にはならない。
問題の所在(論点)
特許法156条1項の審理終結通知を欠く、あるいは遅滞したという手続上の瑕疵が、直ちに審決の取消事由(行政事件訴訟法10条1項、特許法178条1項)となるか。同条が当事者の手続的権利を保障したものかが問題となる。
規範
特許法156条1項の審理終結通知は、書面審理中心の審判において、不意打ち審決を避け、かつ審理の促進を図るための審判機関の公正な運営を主眼とする手続である。同条2項の審理再開は審判長の裁量に属し、当事者の権利ではない。したがって、同条の規定に違反する手続上の瑕疵があったとしても、それが当事者に不利益を及ぼし、審決の実体に影響を及ぼしたと認められない場合には、審決を取り消すべき違法とはならない。
重要事実
特許の審判事件において、審判長が特許法156条1項に基づく審理終結の通知を発したが、その通知の発送が実際の審決書作成の後になされるという手続上の不備があった。上告人は、この手続違背が審理再開の申立ての機会を奪うなどの権利侵害に当たり、審決の取消事由になると主張して争った。
事件番号: 昭和45(行ツ)32 / 裁判年月日: 昭和51年5月6日 / 結論: 棄却
一、特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決により無効審判の対象に変更が生じた場合には、従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正、補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き、審判官は、変更後の審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない。 二、審決に審判手続…
あてはめ
本件における特許法156条の違反は、審理終結の通知が審決書作成に遅れて発せられたという形式的な不備に留まる。同条の趣旨は不意打ち防止と迅速な審理にあるが、再開の有無は審判長の権限であり当事者の権利ではないため、通知の遅れによって直ちに防御権が侵害されたとはいえない。事実関係に照らしても、上告人が審判上不利益を被った事実は認められず、本件の瑕疵が審決の実体(結論)に影響を及ぼしたとは考えられない。
結論
本件の手続違背は審決の結果に影響を及ぼすほど重大な瑕疵とはいえないため、審決取消事由には当たらない。
実務上の射程
行政手続上の瑕疵と取消事由の成否に関する一般論として活用できる。特許審判等の職権審理主義が採られる場面において、手続規定の違反が直ちに取消事由となるのではなく、「不利益の有無」や「審決の実体(結論)への影響」を基準に判断するという枠組みを示すものである。
事件番号: 昭和43(行ツ)78 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 棄却
弁理士が、特許庁に在職中審判官として取り扱つた審判事件につき、退職後、弁理士法八条二号に違反して、右事件の審決の取消訴訟を提起した場合には、相手方が右違反行為に異議を述べているかぎり、提訴を無効と解すべきである。
事件番号: 昭和45(行ツ)5 / 裁判年月日: 昭和48年6月15日 / 結論: 棄却
登録実用新案の登録無効審判事件の係属中にその登録実用新案につき訂正の審判が請求された場合において、まず訂正審判事件につき審決をした後でなければ登録無効の審決をしてはならないと解すべき法律上の根拠はない。