横浜税関に勤務する職員により構成される労働組合の組合員は,昭和39年4月から同49年3月までの本件係争期間中に昇任,昇格,昇給において組合員以外の職員と比較して低く処遇されていたが,同組合員らの多くが非違行為を繰り返していたことなどによれば,その勤務成績が他の職員より劣るといわざるを得ず,個々の組合員に対する上記処遇が差別意思に基づいて行われたとは認められないとした原審の認定判断は,是認することができ,また,同61年開催の全国税関総務部長会議等の関係資料及び同42年ないし同43年開催の東京税関幹部会議議事録の記載に加えて,上記係争期間中に横浜税関当局が同組合の組合員に対し同組合からの脱退の勧誘をしていた事実など原審の確定した横浜税関固有の諸事実をも総合考慮して,同組合に対する差別意思が認められるなどとした原審の判断も,是認することができる。 (意見がある。)
税関当局による税関職員の構成する労働組合の組合員に対する昇任等差別を認めなかったが同組合に対する支配介入を認めた原審の認定判断が是認された事例
国家公務員法108条の7,国家賠償法1条1項
判旨
公務員に対する昇任・昇給等の不利益取扱いが、当局の差別的意思に基づくものであっても、当該職員の勤務成績や能力等に照らして裁量権の範囲内にとどまる場合は、国家賠償法上の違法とは認められない。一方で、職制を通じた脱退勧誘や特定組合への利益供与は団結権を侵害する支配介入として違法となり、国は無形の損害(慰謝料)を賠償する義務を負う。
問題の所在(論点)
1. 特定の労働組合員であることを理由とする昇任・昇給等の差別的処遇は、任命権者の裁量権を逸脱・濫用するものとして国家賠償法上違法となるか。 2. 当局による組合脱退勧誘の容認や、特定組合に対する便宜供与、勤務形態による離間策は、組合の団結権を侵害する支配介入として違法となるか。
規範
1. 昇任・昇給等の人事上の処遇は、任命権者の広範な裁量に委ねられており、成績主義の原則に基づき各職員の能力・適性・勤務実績等を総合的に勘案して決定される。格差の存在に当局の差別的意思が介在していると推認される場合であっても、当該処遇が職員の勤務成績等に照らし著しく不相当でなく、裁量の範囲内にとどまる限りは違法とはいえない。 2. 職制上の上司による労働組合からの脱退勧誘を当局が容認・助長する行為、特定組合への便宜供与、組合員間の接触を断つような勤務形態の指定などは、組合の団結権に対する不当な支配介入として、国家賠償法1条1項の違法を構成する。
重要事実
横浜税関の職員団体が分裂し、政治的活動を行う原告組合と、当局に協力的なJ組合が対立した。当局は、(1)職制上司を通じて原告組合員の脱退を勧誘・助長し、(2)新入職員の研修直後にJ組合の勧誘活動を容認し、(3)原告組合員の宿直勤務を同期から離間させる等の差別的取扱いを行った。また、原告組合員らは、同時期に入関した非組合員に比べ、長期間にわたり昇任・昇給面で低位に据え置かれた。一方、個人原告らには庁舎内での無許可集会やビラ貼り等の非違行為があり、勤務成績評価に影響を及ぼす事情も存在した。
あてはめ
1. 処遇格差について:統計上、原告組合員が低位に処遇されている事実は認められ、当局に差別的意思があったことも推認される。しかし、個人原告らには無許可行動等の非違行為や勤務成績の劣後が認められる。これら負の評価要素を考慮すると、格差は任命権者の裁量の範囲内に留まり、逸脱・濫用があるとはいえない。 2. 支配介入について:職制上司による脱退勧誘の容認・助長、J組合へのバス旅行等の便宜供与、特定の組合員を同期から隔離する宿直シフトの編成は、正当な対応方法を超えた不当な支配介入である。これらは原告組合の存立・運営に重大な支障を及ぼす団結権侵害であり、無形の損害を生じさせている。
結論
1. 個人原告らの昇任・昇給差別を理由とする損害賠償請求は棄却される。 2. 原告組合に対する支配介入については、国家賠償法1条1項に基づき、被告(国)は慰謝料等の損害賠償責任を負う。
実務上の射程
人事裁量の広範性を強調する事案である。当局に差別的意思(不当労働行為意思に相当するもの)が認定されても、あてはめにおいて「勤務成績の劣後」という反対事実が認定されれば裁量内として救済されない可能性を示す。答案上は、裁量逸脱・濫用の判断枠組みの中で、差別的意思と勤務成績というプラス・マイナスの要素をどう衡量するかの指針となる。
事件番号: 平成11(オ)853等 / 裁判年月日: 平成13年10月25日
【結論(判旨の要点)】横浜税関当局による職員団体への支配介入が国家賠償法1条1項の違法を構成すると認められる一方、昇任等の差別については、個人の勤務成績や能力等の事情に鑑みれば当局の広範な裁量の範囲内であり、直ちに違法とはいえない。 第1 事案の概要:横浜税関の職員らが、特定組合(全税関系)の組合員であることを理由に昇…