患者が末期がんにり患し余命が限られていると診断したが患者本人にはその旨を告知すべきでないと判断した医師及び同患者の担当を引き継いだ医師らが,患者の家族に対して病状等を告知しなかったことは,容易に連絡を取ることができ,かつ,告知に適した患者の家族がいたなどの判示の事情の下においては,診療契約に付随する義務に違反する。 (反対意見がある。)
医師が末期がんの患者の家族に病状等を告知しなかったことが診療契約に付随する義務に違反するとされた事例
民法415条
判旨
医師が患者本人に対し、末期がんの診断結果を告知すべきではないと判断した場合であっても、診療契約に付随する義務として、少なくとも連絡が容易な家族等に対して接触し、告知の適否を検討し、適当であれば病状を説明すべき義務を負う。
問題の所在(論点)
末期がんの診断をした医師が、患者本人に告知しないと判断した場合、家族に対して病状を説明すべき診療契約上の付随義務を負うか。
規範
医師が患者に末期的疾患・余命宣告を伴う診断をしたが、本人への告知を控えるべきと判断した場合、診療契約に付随する義務として、少なくとも連絡が容易な家族等に接触し、告知の適否を検討した上で、適当であれば診断結果を説明すべき義務を負う。これは、家族等の協力と配慮により患者の余命が充実したものとなる利益が法的保護に値するためである。
重要事実
医師Fは、患者Dを転移性末期がんで余命1年と診断したが、本人への告知は不適当と考えた。FはDに対し家族の同伴や入院を1度勧めたが拒否され、カルテに家族への説明が必要と記載したのみで、それ以上の接触(カルテ記載の電話番号への連絡等)を試みず、後任の医師らも放置した。その後、Dは他院で末期がんと判明し、家族への告知から約半年後に死亡した。Dの家族(被上告人ら)は告知義務違反を主張して慰謝料を請求した。
あてはめ
本件では、カルテにDの自宅電話番号や長男の氏名が記載されており、医師らは家族に容易に連絡を取ることが可能であった。にもかかわらず、本人の家族同伴拒絶を理由に、再度強く勧めることも自ら連絡を試みることもせず漫然と時日を経過させた。家族の中には告知に特段の障害がない者もいたため、適切に接触していれば家族を介した配慮が可能であったといえる。したがって、家族への告知の適否を検討・実施しなかった点において義務違反が認められる。
結論
本件病院の医師らには家族等への告知義務違反があり、Dはこれにより精神的苦痛を被ったといえるため、慰謝料請求は認められる。
実務上の射程
患者本人への告知が医師の裁量により否定される場面でも、家族へのアクセスが容易な場合には、家族への告知(及びその検討)が独立した義務として肯定される点に意義がある。答案では、診療契約に基づく不随義務の具体的内容として、家族を介した患者の利益保護の観点から論じる際に活用する。
事件番号: 平成3(オ)168 / 裁判年月日: 平成7年4月25日 / 結論: 棄却
一 医師が、患者に胆のうの進行がんの疑いがあり入院の上精密な検査を要すると診断したのに、患者に与える精神的打撃と治療への悪影響を考慮して手術の必要な重度の胆石症であると説明し、入院の同意を得ていた場合に、患者が初診でその性格等も不明であり、当時医師の間ではがんについては患者に対し真実と異なる病名を告げるのが一般的であっ…
事件番号: 平成10(オ)1081 / 裁判年月日: 平成12年2月29日 / 結論: 棄却
医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸…