医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有している患者に対して医師がほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで手術を施行して輸血をした場合において右医師の不法行為責任が認められた事例
民法709条,民法710条
判旨
患者が宗教的信念から輸血拒否の明確な意思を有する場合、その意思決定をする権利は人格権の一内容として尊重される。医師が救命のための輸血方針を隠して手術を行い、患者の選択権を奪った場合には、人格権侵害として不法行為責任を負う。
問題の所在(論点)
宗教的信念に基づく輸血拒否の意思を有する患者に対し、医師が病院の輸血方針を説明せずに手術を施行し、事後的に輸血を行った行為が、患者の自己決定権(人格権)を侵害する不法行為(民法709条、715条)を構成するか。
規範
患者が、宗教上の信念から輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は人格権の一内容として尊重されなければならない。医師は、輸血以外に救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には、病院が採用している輸血方針(輸血せざるを得ない場合は行うという方針等)を説明し、当該手術を受けるか否かを患者自身の意思決定にゆだねるべき説明義務を負う。
重要事実
エホバの証人の信者であるTは、宗教上の信念から絶対的な輸血拒否の意思を有していた。Tは輸血を伴わない手術を希望し、その方針を理解していると思われたW医師らが勤務するV病院に入院した。W医師らは、Tが輸血拒否の免責証書を提出するなど固い意思を有することを知っていたが、病院側は「救命のためには諾否にかかわらず輸血する」という方針を密かに採っていた。W医師らは、手術中に輸血が必要となる可能性を認識しながら、上記方針を説明せずに手術を施行し、術中に出血多量となったため輸血を行った。
あてはめ
Tは宗教的信念からいかなる場合も輸血を拒否する固い意思を有しており、輸血なしで手術が受けられると期待して入院していた。W医師らはこれを認識していたにもかかわらず、術中に輸血が必要となる可能性を予見しながら、救命のためには輸血を辞さないという病院の方針を説明しなかった。これにより、Tは「輸血を伴う可能性のある手術を受けるか否か」を選択する機会を奪われたといえる。したがって、W医師らは説明義務を怠り、Tの意思決定をする権利という人格権を侵害したものと解される。
結論
W医師らの説明義務違反による人格権侵害が認められ、上告人(病院設置者)は使用者責任(民法715条)に基づき、Tが被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負う。
実務上の射程
医療過誤訴訟における自己決定権侵害のリーディングケース。患者の特定の信念に基づく拒否意思が明確な場合、医師の裁量や救命の必要性よりも、情報の開示とそれに基づく患者の同意(インフォームド・コンセント)が優先される。ただし、本判決は「意思決定をする権利の侵害」を理由としており、生存可能性を奪ったことに対する損害賠償とは構成が異なる点に注意が必要である。
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